第26章 共に歩む道
「離れても必ず見つけ出す。そして二度とそんな気が起きぬよう、しつけ直してやる」
貴様を手放す気などさらさら無い!
そんな考えが浮かんだと言うなら、貴様は俺の執念深さを全く分かっていない!
俺に薬を盛り逃げたあの夜の様な、全てが無になった様なあの気持ちだけは二度と味わうつもりはない!
「.....っ、そ、それは困るので、お側にいさせて下さい」
俺の心の声が届いたのか、奴は小動物のように震え、か細い声で答えた。
「ふっ、分かったのならいい。しかとその頭に刻んでおけ」
貴様は、この世で唯一俺が愛した、何よりも愛おしくかけがえのない女だ。
「忘れるな空良、....貴様は永遠に俺のものだ。....愛してる........」
「っん...........」
柔らかな唇も髪も、その肌も....貴様の全ては俺のものだ......!
それから空良が動いたのは昼が過ぎた頃、
事前に伝えてあった門番から、空良が急用で出かけて行ったと連絡が来た。
場所の検討はついていた。
初めて安土城下に来た男と、決められた場所以外行ったことのない女が待ち合わせるとすれば、昨日会って話したと言う茶屋しかない。
小柄で歩みの遅い空良に追いつくのは容易で、俺は身を潜ませ二人の話に耳を傾けた。
二人の会話から、日置嘉正が空良を越前に連れて行こうとしている事が伺える。しかも、巧みに空良の弱みを突いていて、昨夜の奴の不安定さがここから来ていることが見て取れた。
もう、いつ泣き出してもおかしくない顔をする空良を今すぐ抱きしめてやりたいが、この機を逃すと、空良の奥底にある気持ちを聞き逃しそうで、俺はもう少し二人の会話に耳を傾ける事にした。
「........... 空良、目を覚ますんだ!あんな天下人がお前に本気になる訳ないだろ?」
「そ、そんな事は....私は信長様を信じて......」
「反対に聞くが、空良はこのまま高貴な姫君達を差し置いて、自分が信長様の正室になれるとでも思ってるのか?」
「それは..............」
途端に、空良の自信が揺らぎ始めた。