第26章 共に歩む道
「..........っん」
少し冷えた唇を何度か啄ばむと、奴の目からは涙が溢れ出した。
「っーー、」
(やはりな......)
「阿保が。無理しおって.......」
声を耐えても溢れ出て来る空良の涙に、ただ事ではない事が分かる。
「空良、心の内を全て吐き出せ」
「うーーーーっ」
「空良、答えよ!」
「な、何でもありません。ただ、未だ行方のわからぬ兄の事を思い出してしまって悲しくて......」
兄の事だと?
空良が、未だ行方のわからぬ兄の事を案じている事は分かっているが、そのような事ではない事位分かる。
「案ずるな、貴様の兄の行方も犯人同様に探しておる。貴様は安心して俺に守られていれば良い」
強情な奴だが、これ程に言いたがらない理由は何だ?
「っ、........はい」
涙の真の理由を語ろうとせぬ空良に、再び口づけを落とした。
前の俺なら、このまま抱いて無理にでも聞き出す所だが、傷つけると分かっている行為はもう、なるべく避けたい。
「分かったのなら笑え。貴様は笑顔の方が似合う」
どのみちこれから日置嘉正を調べれば分かる。空良を泣かせた罪はきっちりと償わせる!
「うっ、うぅーーーーっ」
だが、空良は泣くことを止めるどころか再び声を殺して泣き出した。
「空良、他にまだ何かあるのならば申せ」
「あ、ありません。っく、ぅーー」
「強情な所はいつまでたっても変わらんな」
ない訳がなかろうが、奴も分かっていて話さんとなると、これ以上押し問答を続けても意味がない。
その場で座り、空良を膝の上に乗せた。
「言いたくないのなら無理には聞かん。貴様が泣き止むまでここにいてやる。好きなだけ泣け」
肩を震わせ、声を押し殺して涙を流す愛しい女を抱きしめる。
貴様を宥める事は、どんな戦を鎮めるよりも難しい。こうして触れているのに、貴様の奥底にある苦しみが分からぬ俺もまた、ただの男なのだと思い知らされる。
「っ、離さないで..........」
俺の着物をぎゅっと握りしめた空良が、絞り出すように言った言葉..........
原因は俺にあるのだと、そこで漸く気がついた.......