第26章 共に歩む道
「あ、...いえ、昔話を少しだけ」
昔話だけではない事も、奴の顔を見れば分かる。
「昔話をした割に、沈んだ顔をしておるな。そんなに嫌な昔話だったのか?」
「いえ、そんな事は....、ただあの日の事も思い出してしまって.......」
理由の一つかもしれんが、これも恐らくは奴の元気がない原因ではないはずだ。
「そうか...、だが案ずるな、貴様の事は俺が守る。いつか堂々と越前の地を歩ける日が来る様にしてやる」
「はい」
今にも泣き出しそうな空良の頬に唇を当てる。何があったのかを空良はこれ以上は言いたくないのだろう。だが早急に日置嘉正の事を調べる必要が出てきた。
「悪いが今日は急用が入って遅くなる。疲れているだろうから先に休め」
まだ城下のどこかにいる奴の真の目的を探らねばならん。
「え、......お仕置きは?」
不安気に顔を上げて俺を見つめる空良に後ろ髪の引かれる思いだが.....
「ふっ、そんなにされたければ明日にでもしてやる。その為にも今夜は寝ておけ」
貴様に降りかかる災いはすぐに取り除かねばならん。
空良にその事を気取られぬように、柔らかな髪に口づけた。
「はい......」
素直に返事をした空良だったが、袖に違和感を感じて見れば、小さな手がそれを掴み引っ張っていた。
(やはりおかしい....余程のことをされたのか、言われたのか?)
「どうした?」
「あ、ごめんなさい」
慌てて袖から離そうとする手を素早く掴んだ。
「空良?」
「ほ、ほんとに何でもないんです。行ってください」
言葉と表情が食い違っているのは一目瞭然だ。
「今日は、お言葉に甘えて先に寝ますね」
無理して笑顔を作っていることに、気がついてないのか?
「空良」
「えっ、........ん!」
抱きしめるだけでは足りない気がして、空良の唇を奪った。