第26章 共に歩む道
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「遅いっ!」
定刻通り部屋に戻っていなければ仕置きとなるこのやり取りは、俺の楽しみの一つだ。
空良が部屋にいなければどうしたのかと気にはなるものの、真面目な奴は、掃除に夢中になる以外で遅れて来ることはまずない。
ここ最近は城下に行く事も増えたが、きっちりと仕事をこなし、その売り上げた金で女中達へ差し入れる甘味を買って帰ってくる以外、寄り道も一切ないのだと護衛の者から報告を受け、真面目すぎる奴の行動に苦笑しかなかった。
だがこの日、空良は初めて城下に出て遅れて戻ってきた。
昔の知り合いだと言う男と会っていた事を先に報告で聞いていた俺は、男と会っていて遅れるという腹立たしい理由を前に、空良をどう仕置きしてやろうかと考えていたが.......
「あ、.....信長様....」
青白い顔で俺を見た空良は、ホッとした表情を見せた。
「仕置きされると分かって遅れてくるとはいい度胸だ。覚悟はできておるだろうな?」
奴の腰を引き寄せ、顔の輪郭を指先でなぞる。
いつもであれば、頬を赤らめ逃げ腰で焦りを見せるのだが、
「......はい。お仕置き、お願いします」
想定外の答えが返ってきた。
「は?」
俺の驚きにも動じず、空良は俺の目を真っ直ぐに見てきた。
「...........貴様、自分が何を言っておるのか分かってるのか?」
「わ、分かってます。早く、お仕置きして下さい!」
城下で何があったのかは、閨で、腕の中で仕置きを兼ねて聞きだそうと思っておったが...........、思いのほか、奴の置かれた状況は深刻なのだと見て取れた。
「.............仕置きは後だ。城下で、何があったのか先に答えろ!」
愉快な気持ちは一瞬で消え去り、心はざわざわと騒ぎだす。
「あの、....前に話した事のある許婚だった方に...偶然会いました」
「ほぅ、偶然..........、で?」
偶然ではない事は分かっていたが.....、空良は偶然だと疑ってはおらんのだろう。