第26章 共に歩む道
「それと光秀、機会があれば、日置嘉正を貴様の諜報活動の一員として使ってやれ。情報収集能力に長けておるし、何よりも度胸がある」
この俺を前にしても、揺らぐことの無い強さを持っておった。越前に埋もれさすには惜しい人材だ。
「日置...と言うと空良の.......?宜しいのですか、恋敵に大きな仕事を与えても?」
口元を愉しげに上げながら光秀が俺に問う。
「ふんっ、恋敵などではない。たまたま、同じ女を愛しただけだ。俺の足元にも及ばん」
「これは失礼を.....」
「それに、空良が織田軍にいる限り、奴は必死で織田軍の為に働くであろう」
愛した女を今度こそ守る為に......
「では早速取り掛かります」
「話は以上だ。俺は一旦天主へ戻る。今の話は秀吉達にも伝えておけ」
「ははっ!」
朝餉を天主に運ぶよう伝えた俺は、空良の元へと戻った。
襖を開けると、部屋の中はシンと静まり返っている。
「ふっ、まだ寝ておるか。まぁ、あたり前だな」
睦月、如月と、真冬の朝は部屋の中といえど底冷えがするほど寒いはずであったが、今年はその寒さをまだ感じてはいない。
理由は目の前の布団の中に....
その布団の横に腰を下ろして見れば、規則正しい寝息をたてながら眠る愛しい女の姿。
昨夜はかなり無理をさせた自覚がある為、空良の寝顔が些か疲れて見えて、苦笑いが起きる。
「可愛すぎる貴様が悪い」
柔らかな空良の髪を梳き唇に口づける。
寝ている時でさえ柔らかくて甘い空良の唇に、更なる独占欲が湧いてくる。
これ程までに心を奪われるとは、己自身が一番驚いている程に、空良を愛している。
空良が暖めてくれるのは身体だけでなく心も同様で、一人の女と共に過ごす時間がこんなにも擽ったく満たされるものだとは思ってもみなかった。
「できればこのままゆったりと、貴様との擽ったい時を堪能したかったが、状況は許してはくれなさそうだな」
身分や秩序に囚われすぎる空良を妻とするのは、天下統一を果たし、身分に関係のない世を作ってからと思っていたが..............
それでは貴様の心が穏やかではいられないのだと、今回の出来事で俺は知った........