第25章 試練〜試される心〜
「嘉正様........」
「空良、.....脅すような真似をして、悪かった」
後悔の念を顔に滲ませながら謝る嘉正様に、私は静かに頭を振った。
謝らなければいけないのは私の方........
酷いことをしているのも、言っているのも全て私.......
例え、自分の身に何が起きていたとしても、嘉正様の事を忘れ、身分違いの恋に身を焦がしてしまった私に、全ての咎はある。
「嘉正様......、私を探してくれて、ありがとうございました。この世に一人ぼっちだと思っていた日々に、嘉正様が探していてくれた事、私は一人じゃなかったんだって事、生涯忘れません」
「空良、綺麗になったな。............昨日、城下でお前を見つけた時、お前が今幸せだって事はすぐ分かったよ」
「嘉正様.......」
「最後に、抱きしめてもいいか?」
コクンと頷くと、ふわりと優しく抱きしめられた。
「あの夜、お前を助けてやれなくてすまなかった。できれば俺が幸せにしてやりたかったけど、それはもう、俺の役目じゃないんだな」
抱きしめる腕は少し震えていて、嘉正様の気持ちが痛いほど伝わって来た。
“ごめんなさい”も”許して下さい”も、嘉正様に伝える言葉ではないような気がして、私は結局何も言えず、彼をそっと抱きしめ返した。
「空良、幸せになれよ」
一度は将来を誓い合った人との最後の抱擁は切なさを残しながら、嘉正様は越前へと帰って行った。
嘉正様はこの後、この時の情報収集能力を信長様に買われ、それを活かしながら次々と武功を挙げ一国一城の武将にまで出世をするが、それはまだ先の話........
共に人生を歩むはずだった私と嘉正様の婚姻の取り決めは白紙となり、私たちは別々の道を歩き始めた。