第25章 試練〜試される心〜
「俺が......どう空良をたぶらかしていると?」
「織田様が間も無くご正室をお迎えになる事は聞いています。それなのに空良を妻にするなどと言い、引き留めておく方が余程卑怯かと思います」
「なる程.........、空良のことと言い、俺のことと言い、貴様は中々情報収集に長けておる様だな」
信長様は私の肩をぎゅっと抱き寄せると言葉を続けた。
「俺は確かに、近い内に正妻を迎える」
( ! )
恐れていた言葉が、ついに信長様の口から飛び出した。
口づけにより温まった心にまた、緊張感が走った。
「やはりっ!ならば.....」
「話は最後まで聞け!妻は迎える。だがその妻は大臣縁の姫でも、大名の姫でもない。ここにいる空良が俺の正妻となる」
(え?.....)
「.........そ、そんなハッタリが通用するとでも?いくら織田様でも、家の存亡がかかったこの婚姻を自由に動かす事はできないはずです」
(今.......なんて?)
「動く動かぬではない。俺がそうすると言っておる」
(私を........何?)
「俺の妻となり、生涯を共にするのはこの女だけと決めておる。貴様の空良は、あの夜襲で死んだ。ここにいるのは、俺が本能寺で見つけ連れ帰った俺の空良だ。諦めるんだな」
「...............くっ、」
嘉正様が言葉を失い項垂れる中、私は信長様の顔をジィーーっと見つめながら、先程の言葉を何度も思い出して整理していた。
「ふっ、何だ、そんなに見つめて......また俺のカッコよさを再認識しておるのか?」
冗談まじりに言いながら悪戯な笑顔を浮かべる信長様だけど.......
「......聞き、まちが...い?」
何度思い返しても、信長様は私を正妻とすると言ったように聞こえた。
「は?」
「だって......今.....変な事........言った?」
「貴様......俺の言葉を変呼ばわりするとは、相変わらずいい度胸だ」
信長様は少しだけ拗ねたような顔をしたけど、すぐに優しい顔をして私の頬を撫でた。