第25章 試練〜試される心〜
「んっ、..........、.....ん.....」
重なった唇は、容赦なく舌が差し込まれ、奥深くまで探られる。
何度も角度を変え、その度にちゅっと水音を立ててはまた重ねられた。
人前で、しかも元許婚の前だと言うのに、不安で冷えた心が温められていくのが分かって、止めなきゃいけないのに止められなかった。
「っん、..............ん、」
それに、こんな口づけをされたら、もう........、立っていられない。
力の抜けていく私の身体を信長様の逞しい腕が支えてくれ、更に蕩けるような口づけが続いた。
「っ........はぁ、.........はぁ、.......っ、信長様......」
唇が離れた頃には、もう信長様の腕の中でくたりと力が抜けていて..........
嘉正様がどんな顔で私たちを見ているかなど、もう気にすることもできなくなっていた。
「日置嘉正.....と言ったな」
低くて良く通る、威厳に満ちた声が、嘉正様に向けられた。
「はっ!」
嘉正様は返事をして頭を深く下げた。
「見ての通り、此奴を満足させられるのは俺だけだ。貴様の出る幕はない。今なら見逃してやる。大人しく越前に帰るがいい」
ゆっくりと、圧をかけるように話すその声色から、信長様が怒っている事が分かる。
「っ、恐れながら、それは出来ません。空良は俺の許婚です。両家で取り交わした証書もあります。いくら織田様でもそれは武士道に反する事。空良は越前に連れて帰ります」
嘉正様も怯む事なく信長様を見て言い返す。
「ほう、......俺を前にしてもこれだけの事を言えるとは面白い。...だが解せぬ、.........貴様、なぜ己自身で勝負をせぬ?」
「はっ?」
「貴様らの話は全て聞いたが、飽きられるだの、捨てられるだの、何故惚れた女を不安にさせる言葉を並べたて空良の顔を曇らせる?....何故一言、幸せにすると、俺について来いと言えぬ?」
(信長様........)
「っ、それは、空良の目を覚ましてやろうと........、何も知らぬ純粋な娘が天下人にたぶらかされて、それを信じる姿は哀れでいたたまれません.......。それに俺は、嘘は言ってません」