第25章 試練〜試される心〜
「...........ダメだ」
嘉正様は険しい顔をして私の手首を掴んだ。
「やっ!」
「空良、お前は越前に帰って俺と一緒になるんだ」
「離してっ!」
「俺達は運命で結ばれてるんだ。来るんだ、空良!」
私も本気なら、私の手を掴む嘉正様の力も本気で........。男の人の本気の力に敵うわけはなく、どれだけ振っても手を離してくれる気配はなかった。
「やっ、ヤダっ!行きたくない!.........離してっ!」
叫んだ所で、誰も助けてはくれない。
嘘をついてお城を出たから、今日は護衛の方も付いていない。
「空良、手荒な事はしたくない。俺と来るんだ!」
嘉正様は懐に手を入れて、小さな陶器に入った何かを見せて来た。
「っ.............」
(もしかして.......眠り薬!?私.......ほんとに連れてかれるの!?嫌だ、こんな形で信長様と別れたくないっ!)
「い、嫌っ!のっ、信長様っ!信長様ぁっ!」
ここにいるはずのない人の名を叫んだって仕方がないのに、分かっているのに叫ばずにはいられず、愛おしい人の名を叫んだ。
「..........阿保が。......やっと俺の名を呼んだか」
(.................えっ!?)
それは、奇跡のような瞬間だった。
そして、その声に驚いたのは私だけではなく嘉正様もで..............、
「の、信長様っ!?」
声のした方を見れば、そこには信長様が不快感を露わに立っていて.........、驚いて力の緩んだ嘉正様の手を思いっきり振り払い、信長様の元へと全力で走った。
「信長様っ!」
「貴様はいつも、肝心な所で遅い!」
「どうしてここが......っん!」
唇は、全てのセリフを言う前に塞がれた。