第25章 試練〜試される心〜
越前にいた頃、身分の高い殿方に見染められ恋に落ち、その後泣きを見たと言う武家の女子の話はたくさん聞いてきたし、身近にもいたから......
信長様が日々囁いてくれる愛の言葉はどれも本物で、疑ってなんかいない。なのに、嘉正様の言葉はどれも的を得ていて、考えない様にしていた事に気付かされてしまう。
でも........
「私は、信長様を信じてる」
信長様を信じてるし、もう離れないって決めた。
「泣かされるだけだ!正室になんて絶対になれないし、側室にだってなれない。今は、純粋無垢だった田舎育ちの空良が珍しいだけだ。そのうち飽きられて捨てられるに決まってる!」
「そ、それでもいい」
「空良っ!」
「だって.......、ずっと、...ずっと暗闇の中にいたから....」
「.......何?」
「嘉正様は、私を純粋無垢だと言ってくれるけど、本当の私はそんな綺麗な心は持ってない!」
「何、言ってるんだ?」
「あの屋敷が夜襲に遭った後、ずっと暗闇の中を死んだ様に生きて来たの。復讐と言う黒い感情に支配されて苦しくて、とても寂しくて........。そこから救い出してくれたのは信長様で、復讐に心を染めた私でもいいと言ってくれた」
『こんな暴力的で可愛げのない女を愛せるのはこの先も俺しかおらん。だから観念して俺にしておけ』
顕如様の所に来てくれたあの日、信長様はそう言って私を抱きしめてくれた。
「色々な事があったけど、私は信長様を好きになって、信長様も私を好きだと言ってくれた。だから、遊ばれていたとしても、飽きられる日が来るとしても、信長様が側にいてもいいと言ってくれる間はたとえ僅かでもいいから側にいたい。嘉正様とは一緒には行けません!」
もう二度と、自分から信長様の手を離さない。
その為にも、私は...強くなるって決めたから.....