第25章 試練〜試される心〜
「今日の予定はどうなってる?」
廊下に出る手前で、信長様が私の手を取り動きを止めた。
「いつも通り、掃除と小物作りです」
「例の許婚とは、もう会わぬのか?」
「はい。....もう、越前に戻ると言ってました」
「そうか........、やけにあっさりと戻るんだな」
信長様は怪訝そうな顔をしたけど、これは私の問題で、信長様にこれ以上迷惑をかけてはいけない。
私の事は、私が解決をしなくては.........
「それよりも早く行かないと、みんなお腹空かせて待ってますよ?」
あまり深く追及されると、この後の事を隠し通せる自信がないのに、掴まれた手を繋ぎ直して歩こうとする私を、信長様は再び止めた。
「空良待てっ!」
「っ、信長様?」
振り返ると顔が目の前に迫っていて、唇を奪われた。
「んっ.....!」
触れるだけの短い口づけはすぐに離れ、力強い目に射抜かれた。
「空良、........俺を信じろ」
「え?」
「周りの戯れ言に惑わされるな。俺だけを信じろ。貴様の帰る場所はここで、俺の腕の中で、俺は貴様を絶対に離さん!」
「っ.............」
それは......、私が欲しかった言葉。
「も、もし離れたら.........?」
そして、私は欲張りだから..........、もっと、特別な言葉を強請ってもいい?
「なんだ.....?離れる予定でもあるような口ぶりだな」
不敵な笑みを浮かべると、私の横髪を梳く様に手が差し込まれた。
「離れても必ず見つけ出す。そして二度とそんな気が起きぬよう、しつけ直してやる」
吐息のかかる距離で凄まれれば、その事が容易に想像できて、たちまちに身体が震えた。
「.....っ、そ、それは困るので、お側にいさせて下さい」
「ふっ、分かったのならいい。しかとその頭に刻んでおけ」
私の怯えっぷりにククッと喉を鳴らして頬を擦り寄せると、一番欲しかった言葉を伝えてくれた。
「忘れるな空良、....貴様は永遠に俺のものだ。....愛してる........」
「っん...........」
優しく落とされた甘い言葉と口づけに信長様の思いを感じて、私の心はどんどん満たされ幸せに包まれた。