第25章 試練〜試される心〜
...........優しく愛しい人。
信長様のことを思うなら、私は身を引くという選択肢を選ぶべきなのかもしれない........
でも、これからもずっと側にいるという選択をした私を許してほしい。
だって....、あなたを失うのは光を失うのと同じ事だから.......
正直......、覚悟はまだできていないけど、また泣くし取り乱すと思うけど、頑張るから......、いっぱいいっぱい頑張るから........、だから、側にいてあなたを愛し続けることを許して欲しい。
その時が来たら、ちゃんとできる様にするから。
だから今は、あなたのその言葉に甘えさせて欲しい。
あなたを誰よりも愛しているから、あなたのいない未来を選ぶ事は、私にはできない.............
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昼が過ぎた頃、門番に仕事で急用が出来たと嘘をついて城を出た。
昨日の茶屋へと急いで行くと、旅支度を整えた嘉正様が、茶屋に入らずその手前で待っていた。
「空良!」
私の姿を捉えると、にっこりと笑って手を上げる嘉正様に、胸がチクリと痛んだ。
「嘉正様すみません。お待たせしてしまって......」
「いや、俺も今着いた所だ。.......それにしても、これから山を越えて行かねばならぬというに、いやに軽装だな。何も旅道具は持っておらぬのか?」
小袖姿に何も持たない軽装の私を見て、嘉正様は首を傾げた。
ここからは、私の思いをきちんと伝えなければいけない。
胸元に入れてきた、撫子の髪飾りをぎゅっと握って覚悟を決めた。
「......嘉正様....、私は、貴方とは一緒に行けません。私はここに、安土に残ります」
「は?........何を、言ってるんだ?」
思いもよらぬ言葉だったのか、嘉正様は手に持っていた荷物を地面へと置いた。
「私は、信長様の事が好きなんです。あの方の側を離れるなんてできません」
「馬鹿なことを、俺たちは正式に取り決められた許婚同士だ。そんな事は許されない!」
嘉正様は私の両肩を掴んで険しい顔を向けた。