第25章 試練〜試される心〜
「案ずるな、貴様の兄の行方も犯人同様に探しておる。貴様は安心して俺に守られていれば良い」
「っ、........はい」
信長様は、再び私に優しい口づけを落とす。
(いずれ嫁いで来る姫君にも、私と同じように口づけるの?)
「分かったのなら笑え。貴様は笑顔の方が似合う」
私の両頬を包み込み顔中に口づける信長様に笑いたいのに笑えない。
「うっ、うぅーーーーっ」
「空良、他にまだ何かあるのならば申せ」
覚悟はできてると思ってたけど、全然できてなかった。
信長様がご正室をお迎えになるという事を、ちゃんと理解してなかった。
「あ、ありません。っく、ぅーー」
(その手が、その唇が、私に触れるように他の女性にも触れるの?優しく愛を囁くの?)
「強情な所はいつまでたっても変わらんな」
ふぅっとため息をつくと、信長様はその場に座って私を膝の上に乗せた。
「言いたくないのなら無理には聞かん。貴様が泣き止むまでここにいてやる。好きなだけ泣け」
優しく抱きしめると背中を撫でて、それ以上は何も言わずに抱きしめ続けてくれた。
どうしよう.......信長様から離れたくない!
この温もりを失うなんて、考えられない!
温かな胸に顔を埋め、背中に手を回して抱きつけば、それに応えるように背中をさすり頭に口づけてくれる。
「っ............」
こんな事を、この先他の女性にもするのだと考えるだけで、嫉妬で気が狂いそうになる!
全然分かってなかった。信長様が、他の姫をお側に置くという事を理解してなかった。
『お前の存在はやがて織田様にとって、いやご正室になられるお方にとって邪魔となり、ひいては両家の同盟に綻びが生じる原因となる』
(私がいると、邪魔になる?)
『信長にとってお前は傾国の姫だ』
これは、顕如様に言われた言葉.......
(私は、信長様を不幸にするの?)
でも、嘉正様と生きて行くことなんてできない!
いつだって、時は待ってはくれない。
けれど、突きつけられた選択肢はどれも残酷で.......
「っ、離さないで..........」
願いはただ一つ。
私は、信長様といたいだけなのに..........