第25章 試練〜試される心〜
茶屋を出るともう日は傾き始めていた。
早く戻らなければ信長様に叱られてしまうのに、足取りは重く中々前に進まない。
確か、前にもこんな事があった。
あれは、蘭丸様がお城の中庭に現れた時。
あの時は、信長様の事は敵だと思っていたから、あぁ、お別れの時が来たのだ。と、辛かったけど覚悟を決めた事を覚えてる。
だけど今は違う。今の私達は恋仲で、例えこの先何があっても離れないと自分の心に誓った。
顕如様の所へ、身一つで私を迎えに来てくれた信長様の手を離さないって決めたばかりなのに.........
考えても、考えても、選びたい答えは一つしかない。
私は、.... 信長様の側にいたい。
けれどそれは信長様の為にならない。
私は一体、どうすれば良いの?
・・・・・・・・・・
「遅いっ!」
案の定、信長様は部屋の襖を開けてもたれ掛かり、腕組みをして声を張り上げた。
「あ、.....信長様....」
私より先に信長様が部屋にいるという事はお仕置き決定だけど、それよりもホッとした。
「仕置きされると分かって遅れてくるとはいい度胸だ。覚悟はできておるだろうな?」
信長様は悪戯な顔で私の腰を引き寄せ、顔の輪郭を指先でなぞってくる。
「......はい。お仕置き、お願いします」
(こんな、何気ない会話がもうできなくなるの?)
「は?」
(お仕置きという名の甘い時間は、もうこれで最後なの?)
「...........貴様、自分が何を言っておるのか分かってるのか?」
「わ、分かってます。早く、お仕置きして下さい!」
(こんなにも好きなのに、一緒にいてはいけないの?)
「.............仕置きは後だ。城下で、何があったのか先に答えろ!」
信長様の顔つきが変わった。
私が誰かと会った事、信長様はきっと護衛の方から聞いて知ってる。
「あの、....前に話した事のある許婚だった方に...偶然会いました」
「ほぅ、偶然..........、で?」
「あ、...いえ、昔話を少しだけ」
「昔話をした割に、沈んだ顔をしておるな。そんなに嫌な昔話だったのか?」