第25章 試練〜試される心〜
「空良?」
「え、.....あ、はい?」
「俺の話はこんな所だけど、俺と一緒に来てくれるね?」
「っ、それは.......できません」
「何故?」
「嘉正様もご存知の通り、私は今、織田信長様と一緒に暮らしています。嘉正様の治める領地は信長様の傘下で、私を連れて行くというのは、その....、信長様を裏切る事になるのでは......?」
こんな言い方、ずるい事は分かってる。
あんなにも立場の違いを気にしていた自分が、こんな時ばかりは都合よく信長様の立場を利用するなんて最低だ。
「お前との婚姻の約束は今も続いている。両家が納得して交わした書面もある。いくら織田様と言えど、それは武士の義に反することになる」
そんな書面が存在する事すら知らなかった。
「でも.........」
信長様はきっと、そんな物を気にしたりはしない。そして私も、嘉正様との未来はもう考えられない。
どうしたら、分かってもらえるだろう。
焦りをにじます私に、嘉正様は言葉を続けた。
「空良、織田様は近々ご正室をお迎えになる」
「...................えっ?」
ドクンッと、心の臓は嫌な音を立てた。
それは、今一番、ううんこの先もずっと聞きたくない話.......
「候補は何人かいてまだ絞られてはいないが、恐らく三大臣の内のどなたかに縁の姫君か、中国の毛利、宇喜多、もしくは四国の長宗我部の姫君。いずれも織田様の天下統一を成す為には必要な縁談である事は間違いない」
「どうして、嘉正様がその事を?」
「俺が織田様の傘下の者だと、空良が言ったんだろう?末端であっても、その位の情報は入ってくるさ。間も無く朝廷で開かれる祝賀会に織田様も呼ばれている筈だ。多分そこで姫君達と会って、お一人を決められる。織田家の重鎮達もそれを望んでいる」
「そう......なんだ」
思っていた以上に早いご正室の話に、私の頭はもうボーッとなって、途中からは嘉正様の話も半分くらいしか入ってこなくなった。