第25章 試練〜試される心〜
茶屋に入ってから、どれ程の時が流れたのかは分からない。ただ、今この時が永遠の様に感じるほど長く、何を話していても脳裏には信長様との事ばかりが浮かんでくる。
あの夜襲に遭った夜、嘉正様はすぐに駆けつけてくれ、その後もあの手この手を使い私を探していたと話してくれた。
「私は、死んだ事になっていると聞いていますが、嘉正様はそうは思わなかったのですか?」
本来なら、死んだかもしれない許婚の事を必死で探し出してくれた目の前のこの殿方に感動して泣く場面なのかもしれない。
嬉しい、会いたかったと、嘉正様も私が言うと思っていたのかもしれない。
でも実際は、自分でも驚くほどに渇いた言葉しか出てこない。
「俺なりに八方手を尽くして調べた。お前は生きてると疑わなかった。そして今お前は俺の目の前で生きてる。空良、ずっとお前に会いたかった」
私の手を握り涙を堪え震える姿に、初めて嘉正様の思いを知った気がしたと同時に、私はこの方を裏切っているのだという思いに徐々に苛まれていく。
目の前にいる殿方は、親同士が決めた許婚。
それがついさっきまでの私の中の認識だった。
嘉正様はお優しくて男らしく、お相手として申し分のない殿方で........、この方と夫婦になるのならと、私も心ときめかせていたのは確かだ。
けれどもそれは恋に恋する様な気持ちで、まだ何も知らない幼かった自分が勝手に思い描いた理想に恋をしていただけのこと。
だからこそ、信長様に聞かれるまで忘れていたくらいで........
それが何故今になって...........!
...............でも、こう思うのは私の勝手で我が儘だ。
もし信長様と恋に落ちていなかったら、私は喜んで彼の言葉を受け取り一緒に越前に戻ったかもしれない。
勝手に二人の仲を終わった事にして信長様に恋をして、その思いが叶って幸せだからさようならなんて、目の前の嘉正様にどう言えというのか.........