第25章 試練〜試される心〜
二人がその場からいなくなると嘉正様の顔の強張りも解け、刀にかけた手も解いた。
「空良.........今のは一体?」
「あ、私を護衛してくれてる方達....。私も初めてお会いしたから驚いたけど....」
家康の言う通り、何かあれば駆けつけるとはこう言う事だったのだと初めて実感した。
「.........護衛?」
「あ、うん。一人で城下に出るのは危険だからって、付けてくれて........」
「本当に、護衛なのか?」
いつの間にか目の前に立つ嘉正様は、疑いの眼差しで私を見た。
「嘉正....様?」
護衛でなければ何だと思うのか分からず、私はその目を見つめ返した。
「..........いや、そんな事はもういい。空良、俺と一緒に越前に帰ろう」
「...............え?」
「家督を継いで、今は俺があの家の当主になった。空良を妻に迎え入れる準備はもう出来てる。お前は身一つで来てくれればいい。さぁ、このまま俺と一緒に行こう」
「まっ、待って!」
「空良?」
私の手首を掴み連れて行こうとする嘉正様に、まだ許婚の件は続いているのかもしれないと思ったけれど、それは、予想もしていなかった突然の出来事で.....
「あ、あの、私はもう家も家族も失って、今はただの城の女中です。だから、嘉正様との婚儀の件も白紙に戻ったのでは.......」
元許婚の出現に喜ぶこともできず、ただ頭に浮かぶのは信長様の事ばかりで.........
「馬鹿だな。空良は空良だ。昔も今も俺の許婚で、妻になる女性に変わりはない」
「嘉正様.........」
目の前で、私に会えたことを喜び優しく笑う嘉正様に、戸惑うだけの私........。
だって、こんな事が起こるなんて思ってもいなかったから.........。
でも私はもう、嘉正様の手を取る事はできない。
「あの、......私は今、織田信長様の元にいて、その、.....信長様とこい...」
「空良、それ以上は言うな」
嘉正様は私の両肩をガッと強く掴み、私の言葉を遮った。