第25章 試練〜試される心〜
「空良っ!」
昼下がりの城下町、新たな仕事を請け負い気分揚々と帰る途中で誰かに名前を呼ばれた。
「はい?」
“天主の姫様”と呼ばれる事が多い城下で名前を呼ばれる事は珍しく、不思議に思って振り返った。
「空良、俺だ」
振り返った先に立っていたのは、見覚えのある男性。
(えっと......)
突然の事で頭が混乱したのは一瞬で、私はすぐにその男性の事を思い出した。
「嘉正様っ!」
男性の名は日置嘉正様。
越前にいた頃、夫婦になると将来を誓い合った方だ。
「空良っ、久しいな。探したぞ」
伺う様に見ていた嘉正様の顔は私の反応に安堵し、記憶に残る優しい笑顔になって私に近づいて来た。
(............どうしよう)
これが、自分の頭に浮かんだ最初の言葉。
少しずつ縮まっていく嘉正様との距離に、私の足は自然と背後に一歩下がってしまった。
「......空良?」
そんな私の行動を見て、嘉正様の顔が怪訝そうに曇った次の瞬間、
「貴様っ!何奴だっ!?」
刀を抜いた二人の侍が突然私の前に現れて、嘉正様を牽制した。
「なっ、貴様らは一体!」
驚いた嘉正様も刀に手を掛ける。
「空良様、お下がり下さい。ここは我らが」
その言葉で、この二人が私の護衛なのだと気がついた。
「あ、待ってください。あの方は怪しい方ではありません」
信長様の命を受け、秀吉さんが付けてくれた護衛の方なのだから、きっとかなり腕の立つ方々に違いなく。このままでは嘉正様が斬られてしまいそうで、私は慌てて彼らに説明をした。
「空良様?」
「あの方は私の..........えっと、....古い.....知り合いです」
何故か許婚だと言うのが憚られ、私は言葉を濁した。
「久しぶりにお会いしたので驚いてしまいましたが大丈夫です。少し、お話しをしても構いませんか?」
「そう言う事でしたか。それは大変失礼を致しました。では我らは近くに控えさせて頂きます」
「ありがとうございます」
護衛の二人は刀を収めると、私と嘉正様に軽くお辞儀をして姿を消した。