第3章 侍女の仕事
「..................っ」
何なの!?
人の事を襲ってきたと思えば、急に殺れと言って仰向けに寝転がる。
好きに殺れと言われても、もう母上の懐剣もあの本能寺の時に失くしてしまったし、毒を盛ろうにもそんな物は持ってない。
私の横で寝転ぶこの男の首に手をかけた所で、私の手でこの太く逞しい首を絞めることができるとも思えない。
「....これを使え」
狼狽る私の横で信長は少し手を伸ばすと、私が逃げる為に襦袢を切り裂いて作った紐を拾い取り、適当な長さにぶちっと千切った。
「?」
意味が分からずそのまま黙って見ていると、その千切って短くなった紐を、信長は自身の首に巻き付けた。
「これなら、貴様の力でも簡単だろう?」
そう言いながら私を信長の身体の上に乗せ、信長の首で交差した紐の両端を私の両手に握らせた。
「っ.............」
自分を殺す指南をするなんて正気なの!?
それに、今から殺されようとしている男の目とは思えない程に挑戦的な目......
「言っておくが、俺はあまり気が長くない。さっさとせぬと先ほどの続きをする羽目になるぞ」
「それはっ...........」
絶対に嫌だ。でも.......
「躊躇うな、こう......ただ引っ張れば良い」
信長は、紐を持つ私の両手に自身の両手を被せ、ゆっくりと引っ張った......
緩んでいた紐が、ゆっくりとその緩みをなくし信長の首に貼り付いていくのをゴクリと喉を鳴らし、ただ見つめた。
次第に、自分の息が上がってきた。
手の感覚も麻痺してる。
この紐を引っ張っているのは一体どっちなの?
私の手を掴む信長?
それとも..........
『空良、必ず生きて、幸せになりなさい』
「..................っ」
昨夜と同じだ。この男を殺そうとすると、何故母上のあの言葉を思い出すの?
ダメだ、躊躇うな!
このまま思いっきり引っ張れば父上と母上の仇が討てる。
この時のために生き延びて来たし、本能寺で失敗に終わり捕まり慰み者にされても命長らえこの城に留まっているのは、この男を殺すためなのだから.....