第22章 初めてのお買い物
「.............なる程、で、貴様も何か差し入れを持って行きたいと....」
「は、はい。あと、.....」
「それなら、これを持っていけ」
まだ肝心な事が話せてないから話を続けようとした時、信長様は私を壁際に追い込んだまま、近くの棚を開けて小さな壺を出した。
「これは......?」
「金平糖だ。この棚にいつも入れてある。持って行きたい時に好きなだけ持っていくが良い」
「えっ、でもこれは信長様の大切な物じゃ....」
確か、食べすぎるから秀吉さんに隠されるって聞いたことが......
「構わん。それで話は終わりで良いな」
「あっ、まだ.....」
話はいつの間にかお菓子が欲しかったにすり替わっているけど、最初の質問はそれじゃない。
「まだ何だ?」
「最初に言いましたが、お友達と城下に出る事を許可して欲しいんです。その、私の作った小物を呉服屋さんが何点か買って下さって、良ければ今後も色々と注文をしたいから会いたいと言われて」
「ダメだ」
「だからどうしてですか?」
また振り出しに戻った。
「空良、貴様は国元の越前では死んだ事になっておる事を忘れたのか?」
「忘れてはおりません。でも、ここは越前ではなく安土です。私の家族や近しい者は皆あの夜に命を落としてしまい、あの頃の私を知る者はもはや誰もいません」
それに、空良と言う名は別に珍しい訳でもない。
「いや、一人おるであろう?」
「え?」
「貴様の許婚だった奴だ」
「許婚?............許婚って.....ふふっ、お忘れですか?私はその方の事、信長様に聞かれるまで忘れていた位ですよ?その方ももうとっくに私の事なんて忘れているに決まってます」
信長様があまりにも真剣に言うから、私は思わず笑ってしまった。
「もしかして、恋文をその方に初めて書いたこと、まだ怒ってるんですか?」
私としては、この言葉は冗談で言ったつもりだった。
「そうだ」
「えっ?」
真剣な面持ちで答える信長様の目に魅入られるように引き寄せられた。