第22章 初めてのお買い物
みんなが女中部屋でそんな事を言っているとも知らず、自分の作った小物が売れるかもしれないと聞いた私は、急ぎ足で天主へと戻っていた。
夜、夕餉を済ませた後も公務へと戻る事が多い信長様を待つ間、私はいつも贈られた反物の端切れを使って小物作りをしていた。
最初の小物は、いつもお世話になっている小夜ちゃんに感謝の気持ちを込めて贈った。そしてそれを見た他の女中さん達も褒めてくれて、出来上がる度に、みんなに贈っていた。
越前にいた頃は家計の足しにと思って売っていた。けれど、ここ安土の着物や小物達に実際目で見て触れてからは、自分の作った物を売るなんてとんでもないと思っていたから、小夜ちゃんのさっきの一言はとても嬉しかった。
天主の襖をゆっくりと開ける。
信長様は軍議なのか、いないみたいだ。
さらに奥の部屋の自分の衣装箪笥から、今までに作った小物を入れてある巾着袋を取り出した。
「どうか売れますように」
巾着袋を握りしめて、私はまた女中部屋へと戻った。
〜後日〜
「空良、あれ全部売れたよ!」
女中部屋で掃除の支度をしていると、小夜ちゃんが入ってきて嬉しそうに話してくれた。
「本当?全部売れたの?」
(信じられない)
「うん。しかも、空良さえよければ色々とお願いしたい品があるから直接会いたいって。あ、先にお金渡すね」
ちゃりんと音を立てて、お金が自分の手の平の上に置かれた。
「わぁ.....」
久しぶりに見るお金はとても新鮮で、かなり長い事目にしなかった自分にも驚いたと同時に、それだけ信長様に全てを養ってもらっていると言う事に、改めて感謝の気持ちが湧いてきた。
「城下に出る事は出来そう?その時は私も一緒に行くよ?」
「うーーーん、こればかりは信長様に聞いてみないと......」
外に出たいとお願いした事もないから、どんな反応をされるかは分からないけど。
「案外あっさり良いよって言ってくれるかもよ?」
「うん、そうだよね。昼餉時に早速聞いてみるね」