第21章 焦燥
「はぁー、あんたも大変だね」
家康の部屋へ行くと、薬研を引きながら家康は大きくため息をついた。
「大変って、信長様の事?」
「そう。あの人を本気にさせるなんて凄いけど、あんたはその、大丈夫なわけ?」
家康はそう言いながら、チラリと私の首元に視線を一瞬泳がせた。
やっぱり、気になるよね.........
「うーーん、大丈夫、かどうかは分からないけど、......私は幸せだよ」
「ふーん。あんたも変わってるね」
「ふふ、そうなのかも。だって、初めは命を狙ってたわけだしね」
「ああ、あの人に毒は効かないって事知らずに騙されて、解毒剤貰いに来たっけ?」
「そうそう。懐かしい」
本当に、あんな出来事を懐かしいと言って笑えているなんて、信長様がお相手だったからこそだ。
「今もね、自分では抑える事ができない位、どんどん信長様を好きになってて、とにかく大好きなの。あっ、家康は好きな人とか恋仲の女性はいないの?」
私の話ばかりじゃつまらないよね?
「そんなのいるわけないでしょ」
「そうなんだ。こんなに優しくてカッコいいのにね」
「っ、あんたね......」
「何?」
「いや、何でもない。ちょっと信長様に同情しただけ」
「?」
「さぁ、無駄話は終わりにして始めるよ。例の薬に効く信長様の耐性薬を作るんでしょ?」
「あ、うん。もう本能寺の時の様な事がないようにしたいの」
蘭丸様と逃げたあの夜もそうだけど、毒の耐性訓練を積んだ信長様でも唯一耐性をつけられなかったあの睡眠薬。
あの薬が効く限り、いつまた命を狙われるか分からない。
「あの日使った薬は作れる?」
「うん、蘭丸様の元で教えてもらったから覚えてるよ」
「ならまずはそれを作って、何が効果的かを試して行こう」
「うん。宜しくお願いします」
信長様の命はもう誰にも狙わせない。
信長様が私を守ってくれる様に、私も信長様を守りたい。