第21章 焦燥
「信長様、お待たせしました」
既に上座に座っていた信長様の前に、運んできた膳を置いた。
「貴様、結局行きおって」
信長様の隙をついて天主から走って出て来たから、すごーーく機嫌が悪そう。
「ごめんなさい。でも、約束を破ってそのままってわけには」
「来いっ!」
「えっ、あっ!」
グイッと腕を引っ張られると膝の上に乗せられおでこが合わさった。
「あの、」
「貴様からの口づけで許してやる」
「えっ、い、今?」
「当たり前だ」
信長様はぺろっと、私の唇を舐める。
「っ.......」
これ本気だ。
「早くしろ」
「うー〜いじわる」
何でいつも謝罪の代わりに口づけを要求するんだろう。
とは言え、拗ねてしまった信長様の機嫌を直すにはこの方法しかない事も確かで、私は観念して信長様の頬に手を当て目を閉じる。
「はぁ〜。だから、そう言う事は天主で済ませてから来て貰えませんか?」
信長様の唇に軽く私の唇が触れた所で、コホンと言う秀吉さんの咳払いと共に、家康の呆れた声が聞こえて来た。
「わゎっ!」
そうだここ広間だった!
「ふんっ、どうやらここまでだな」
ちゅっと、勢いよく口づけられると、信長様は前を向いて皆に食事を始める様に合図をした。
(た、助かった。いや、先延ばしにする方が倍返しになるんじゃ.......って言うか、みんなの前って事を忘れて口づけしようとする私って....)
ぐるぐると、色々な感情が頭を巡る。
「どうした?貴様も早く食べよ。足りぬなら俺のをやろうか?」
切り替えの早すぎる信長様は私を膝から下ろすと、今度は意地悪攻撃をしてくる。
「い、要りません!私の膳は常に大盛りにしてありますので!」
大盛りになんてしてないけど、今朝から意地悪ばかりしてくる信長様をキッと睨みつけた。
「ならば良い。たくさん食べて機嫌を直せ」
(機嫌って、悪かったのは信長様でしょ?)
睨んでいるのに、ふっと顔を緩めて私の頬を撫でる信長様にもう怒れなくなった。
恋は惚れたもの負けだ。
どんなに意地悪な事をされても、優しく微笑まれれば許してしまう。
「い、いただきます」
政宗の作った朝餉はとても美味しくて、感動しながら豪快に食べる私を見て信長様はまた楽しそうに笑った。