第19章 恋仲〜逢瀬編〜
「あの.......信長様?」
「貴様には、嘘も方便と言う言葉は存在せんのか?」
「えっ、でも、嘘はお嫌いでは...........」
「誰に書いた」
「え?」
「誰に文を書いたのかと聞いている」
「あ、あの.....許婚の方に....母上に書いてみてはと言われて..........」
「また其奴か。そもそも貴様は、言われれば書き、乞われれば答え、迎えが来ればその手を取り逃げて行く。その流されやすい性格を何とかせよ」
「なっ!人を誰にでも靡く女みたいに言わないで下さい。許婚だったのですから、母上に文を書いてみてはと言われたら書くに決まってるじゃないですか!」
蘭丸様との事だって、仕方ないじゃない!
「何て書いた?」
「え?」
「其奴の文には何と書いたのかと聞いておる」
「それは.....本当に覚えていなくて.....」
夜襲にあった辛い時の事が関係しているのかは分からないけど、あの頃の記憶はいつもどこか曖昧で.......、信長様や他の人との会話の中で少しずつ思い出しているから、詳しい事までは思い出せない。
「都合のいい記憶だな。もう良い、寝る」
ふんっと拗ねた顔をすると、信長様は私を抱きしめていた腕を解いて、背中を向けてしまった。
「っ........」
(また、怒らせてしまった?)
じわじわと、目には涙が滲み始め、どうして良いのかわからず、向けられた信長様の背中で涙を拭いて嗚咽を堪えた。
「っ、泣くな、貴様に泣かれると弱い」
私の嗚咽に気づいた信長様は、再び身体の向きを変え、困った顔を私に向ける。
「だって、すぐ怒る.......」
「貴様が意地悪を言うからだ」
「い、いじわるは信長様の方です」
「違う、貴様の方だ。貴様はいつだって、俺をその気にさせておいて簡単に突き落とす」
「そ、そんな事!それにいつだって信長様は余裕で、私の様に信長様の事が好き過ぎて心の臓が飛び出しそうなほど苦しくなんかならないでしょ?」
どんな時だって余裕な信長様に振り回されているのは私の方なのに。
「貴様は阿呆だな」
「え、」
「ここを、触ってみろ」
片手を掴まれると、信長様の心の臓に当てられた。
(あ、........)
ドクドクとそこは私が予想していたよりも大きく鼓動を打つ。