第3章 侍女の仕事
「何だ、残念そうだな」
くくっと、笑いながら、信長は私に濡れた体を拭かせる。
あの後、一緒に湯あみをさせられると思って焦る私を他所に、脱衣所に着くと信長はさっさと着物を脱いで、さっさと一人で湯あみを終え、脱衣所へと戻って来た。(私はその間、呆然と信長の着替えを用意していた)
「別に.....」
この裸体を拭くのだって、本当は勘弁してほしい。
悔しいけど、無駄なく引き締められた体を見ると、嫌でも昨夜の事を思い出してしまう......
なるべく信長の身体を見ない様に身体を拭いて行く。
本当に、変わった男だ。
私に命を狙われていると言うのに、こんな真っ裸で仁王立ちになって、私に身体を拭かせている。
背中から拭き始めたから、次は嫌でも前を拭かなければいけない。
「早くしろ、風邪をひかせて殺すつもりか」
躊躇する私を、焦れた声が急かせる。
「風邪くらいで、死ぬんですか?それならこのまま放っておきますが...」
「いや、幼き頃より風邪はひいたことはない」
「でしょうね」
こんな会話も無駄だ。さっさと拭いて切り上げようと信長の前に立つと、
「あっ.....」
腕を掴まれ引き寄せられた。
「っ..........な、何?離してっ!」
「遅い。このまま貴様の着物で拭いた方が効率が良い。じっとしていろ」
私を腕に閉じ込めぎゅっと抱きしめると、そのまま時が止まった様に信長は動きを止めた。
「っ..............」
自分の鼓動が耳まで届くほどに早く煩く鳴り響く。
この男の考えている事は全く分からない。
「どうした。耳まで真っ赤だぞ」
抱きしめた腕を緩める事なく、耳元で悪戯に囁く。
「っ、息苦しいだけです......それに、私の着物が濡れてしまいました」
そんな些細な事で、私の身体はキュッと窄まってしまう。
「襦袢を裂いて紐にするより、手拭いがわりにする方がましであろう?」
「あれは......」
確かに、物を粗末にしてしまったと襦袢には申し訳なく思ってるけど....
「ふっ、乾いた様だな。着替えさせろ」
「っ、........はい」
この人といると、調子が狂う。
悔しいけど、相手は何枚も上手で敵いそうもない。
結局、信長の思うままに操られ、再び天主へと戻った。