第19章 恋仲〜逢瀬編〜
馬から降りて、馬番に馬を預けた後、当たり前に天主へ向かう廊下を共に歩いた。
「今日はありがとうございました。初めての事ばかりで、とても楽しかったです」
「そうか。また連れて行ってやる」
「はい!」
逢瀬は凄く楽しくて、見る物、食べる物全てが信長様と一緒と言うだけで倍以上に楽しく美味しく思えた。
それに、仲直りも出来て本当に良かった。
今日は、このまま一緒に天主に行ってもいいよ......ね?
ご飯を食べる以外、手は今朝からずっと繋がれっぱなしだったし、このまま天主に連れて行ってもらえるのだと、私は思っていた。
けれど........
「空良待て」
「はい?」
突然の、待て。
「ここを真っ直ぐ行けば天主へ。右へ曲がれば貴様が昨夜過ごした部屋だ」
信長様は歩みを止めて、私と向き合った。
「はい......」
(なに?)
「どちらへ行くか、今ここで貴様が決めよ」
信長様の真剣な眼差しに、冗談を言っているのではないと分かる。
「わ、私はもちろん信長様と天主に行きたい...です」
「.........貴様、天主に共に来ると言う意味を、分かっておるのか?」
「.......わ、分かってます」
私の顔を覗き込むように、信長様は私との距離を詰めて来る。
「もう、俺の命令で天主に身を置くのではない。これからは貴様の意思で、俺と共に天主で過ごすと言う事の意味を、本当に分かっておるのだな?」
「はい................んっ、」
大きな手が片方伸びて、私の横髪に差し込まれた。
「ここから先は、俺はもう遠慮はせん。そう言う意味だと、理解しておるのだな?」
差し込まれた手に頭を上げられると、熱い眼差しに捕らえられた。
「......っ、分かってます」
「もう逃げる事も、待ったも聞かん。一生俺の側で、俺に愛される覚悟はあるんだな!」
「っ..............」
信長様に、愛される覚悟はある。
でも、信長様との未来.......。
それを考えるのは、実はまだ怖い。
「どうした。やはり怖気付いたか?」
この世の理を知らぬほど、無知でも子供でもない。
この先どれ程の愛をあなたから賜ろうとも、私があなたの一番になれる事はない。それを許すほど、この世の中は甘くはない。