第19章 恋仲〜逢瀬編〜
「これはこれは信長様」
近づいた船の前で積荷の確認をしている男性が、信長様に気付いて挨拶をした。
「船の中を此奴に見せたい。入っても構わぬか?」
「もちろんでございます。こちらの方はもしや、天主の姫君様では....?」
男性は笑みを浮かべながら私の方をチラリと見た。
「すっかりその呼び名が定着しておる様だな。一応名はある。空良だ」
信長様は馬から降りて私も降ろすと、商人風の男性に紹介をしてくれた。
「空良様、初めまして。堺で商いをしております小西隆佐(りゅうさ)と申します。宜しくお見知り置きを」
ペコリと男性は頭を下げ、
「空良と申します。初めまして」
私も自己紹介をしてお辞儀をした。
「ほほぉ、.......天主の姫君は、類稀なる美貌の持ち主とは伺っておりましたが、これは噂以上でございまするな。これ程の女人は堺でもお会いした事がございません」
「あ、あの.......」
こう言う時は、素直にお礼を言うのが正しいのかな.....?
「空良、あまり隆佐の言う事を間に受けるな。こやつは堺きっての商人で口が上手い。おだてられて、高い物を買わされるぞ」
返答に困る私の顔を覗き込んで、信長様が揶揄う様に教えてくれる。
「えっ、あ、そうなんですか?そ、それは困ります。私にはそんなお金はありませんから」
ころっと騙される所だった私は慌てて頭を左右に振った。
「はははっ!なんともお可愛らしい。天下の織田信長様の思い人となられてもこの謙虚さ、信長様が夢中になられるのも無理はない」
隆佐さんは恰幅の良い笑い声を上げた。
「そうなのだ。この日ノ本を探しても、こんなにとぼけた愛らしい女は此奴以外にはおらん」
信長様はご機嫌に笑うと、優しく私の頬を撫でる。
「.............っ、」
優しく笑う信長様と目が合うと、どうしても恥ずかしくて目を伏せてしまう。
「これはこれは、聞きしに勝る寵愛っぷりですな。ささっ、立ち話も何ですから、船の中を案内しながらお話を致しましょう」
隆佐さんが案内してくれた商船はとても大きくて立派で、この船に乗って日ノ本以外の島にも何度も行った事があるのだと教えてくれた。