第19章 恋仲〜逢瀬編〜
「あ、今日はどちらへ?」
城下を歩くのかと思ってたけど、背後には信長様の馬が控えてる。どこか遠乗りでもするのかな。
「近淡海を近くで見た事がないだろう。連れて行ってやる」
「近淡海.......」
各地を水路で結ぶ、この日ノ本で重要な湖で、天主から日々眺めている湖。
花火の時の西湖も大きな湖だったけど、
「近くで見るとより一層海の様に大きな湖だと、父上から聞いた事があります」
「ふっ、どれ程大きいのか、貴様の目で確かめてみよ。行くぞ」
「はい」
信長様の馬に一緒に乗せてもらい、馬は緩やかに走り出した。
「寒くないか?」
「はい」
でもくっついていたいから、掴まるフリをして、ピッタリと信長様の胸に身体を倒した。
胸はずっとドキドキと苦しい。
けど、これは幸せだから。
好きな人がいて、その人もまた私を好きだと言ってくれ、こうしてお互いの時間を共にする事ができる。
この奇跡がなければこの胸の痛みに気づくこともなかったんだ。
「着いたぞ」
馬の走りを緩め、ゆっくりと歩かせる。
「わぁっ!」
目の前に広がるのは、大きな港。
何隻か船が停泊していて荷物の出し入れを行なっている。
「立派な港町ですね」
(越前の港も立派だったけど、それ以上な気がする)
てっきり砂浜に連れて行かれると思っていたから、安土城下とは違う雰囲気の港の町並みに目を奪われた。
「城下とは違った賑わいがあり、ここはここで面白い。貴様、商船に乗ったことはあるか?」
「いいえ、........船と呼ぶ物には何も乗った事は......」
「ならばちょうど良い」
まるで少年のように目を輝かせて、信長様は馬を停泊中の船に向けて歩ませた。