第18章 恋仲〜信長編〜
「信長様、夕餉の用意が整いましたので、大広間にお越し下さいませ」
空良にムラムラしかけた所で夕餉の呼び出し。
そうだ、空良とは別々に食べると言ってある為、必然的に大広間で俺は食事を取る事になるわけだ。
今日は、奴の顔を一度も見ていない。
己から部屋を出て、奴を他の部屋へと移らせておきながら、もう奴に触れたくて仕方がない。
俺はとことん、奴に対しての我慢が効かんらしい。
「分かった。今行く」
空良からの恋文を懐に入れ、俺は一人広間へと向かった。
・・・・・・・・・・
「........ん?政宗、今宵の味噌汁も貴様が作ったのか?」
広間に入り上座に座ると、政宗が俺の夕餉の膳を持ってきた為、豆味噌ではあるが、いつもとは違う味に質問をする。
「いえ、俺ではありません」
「そうか......」
もう一口啜ってみる。
やはりいつもと味が違う。何と言えばいいか、優しい味がする様な.....
「今夜の味噌汁は、空良が作りました」
俺の反応を楽しむ様に、政宗が口を開いた。
「空良が?」
「空良はご存知の通り越前の出ですから、米麹などを使った白味噌の味噌汁しか作った事はなかったそうですが、今夜は信長様愛用の豆味噌(赤味噌)を用いて作りました。どの味が正解なのか分からず苦労していましたが、信長様の為に厨番に必死で習って作ってました」
「.........そうか」
それを聞いて、改めて一口味噌汁を啜る。
空良が初めて作ったと言う味噌汁は、少し薄味ではあったが、丁寧に取られたであろう出汁の味が効いていて、奴の優しさが身体の内から広がっていく様だった。
「美味しいですが薄味ですね。豆味噌本来のコクも出ていないので改善するよう空良に伝えておきます」
俺の為を思ったのだろうが、俺と同じく尾張の豆味噌で育った秀吉が空良の味噌汁にケチをつけた。
「秀吉、貴様今すぐ腹を切れ!」
「はっ?またですか!?」
貴様には分からんのだろう。
愛おしい者が心を込めて作ったその味噌汁は、間違いなく俺が今まで飲んだ味噌汁の中で、一番美味いと言う事を。
まるで空良そのものの様な優しい味の味噌汁を、俺は最後の一滴まで大切に飲み干した。