第18章 恋仲〜信長編〜
「御館様宛に文が届いておりますが、如何なさいますか?」
天主に戻ると、光秀が文箱に入り切らんほどの文を持って来た。色とりどりの文は全て恋文なのであろう。
「恋文などいらん、捨ておけ」
「は、仰せの通りに」
くるりと踵を返す光秀の手元から、何故か奴の香りがした。
「...................待て」
「如何しましたか?」
振り返る光秀の手元から、やはり奴の香りがする。
「これを見せろ」
重なって置かれた文達の一番上にある、真っ白の文を手に取ると、一段と奴の甘い香りがする。
まさか..........
「これだけは読む。あとはいらん、下がれ」
「はっ」
光秀は分かりやすく口の端を釣り上げ、部屋を後にした。
真っ白な、香を焚き染めている訳でもない文に奴の香りが香るなど、溺れているにも程がある。
だが間違いなく奴からの文だと確信した俺は、その場で文を開いて読んだ。
文には、昨夜の事への謝罪とその理由。そして贈り物も嬉しかったけど、高価な物に触れた事がなく素直に喜べなかった事などへの謝罪がつらつらと書き綴られていた。
「ふっ、恋文も俺が初めてか?」
何でもそつなくこなす割りに、色恋沙汰に関しては全くと言っていいほど知識を持たぬ奴らしい、恐らくは、初めて書いたであろう恋文に、己の顔が緩むのが分かる。
おおよそ恋文には程遠い、謝罪の様な文であったが、何の駆け引きもない、奴らしい真っ直ぐに伸びた綺麗な文字と文章が、俺の心を震わせた。
最後の折り目を開くと赤く色づいた紅葉の葉。
そして、
「............っ、」
そこには、俺に逢いたい気持ちや、好きだと思う空良の気持ちが隠す事なく書かれていて、恥じらいの塊の様な奴がこれをどんな風に書いたのかと思うと、顔は余計に熱くなり緩んだ。
「.........まずいな、奴を今すぐ抱きたい」
恋文を読んで身体が反応するなど我慢がないにも程がある。
だが、抱きたい。
柔らかな肌も、甘い吐息も、恥じらいで赤く染まる頬も........
俺の心も身体も幸せで満たす事ができる女は空良、貴様しかいない。