第18章 恋仲〜信長編〜
城下に出ると、何やら女どもが騒がしい。
以前はよくあったこの光景。
だが、夏祭りで空良を初めて城下に連れて来てからはぱったりと無くなった絡む様な熱い視線が、今日は痛い程に向けられている。
「女どもは情報通ですね。信長様と空良の事、もう城下に広まっている様ですよ?」
視察先の米問屋で話を聞いたと言って、秀吉が戻ってきた。
「なる程、分かり易い反応だな」
空良がいぬ間にと言うやつか?
奴も、これ位分かり易く心の内を伝えれば良いものを。
「信長様、天主の姫様が気に入りそうな着物が入っておりますが、見て行かれませんか?」
呉服屋の前を通ると、店主が待ち構えており声をかけてきた。
「ばっ!お前、今日の信長様はだな.....」
秀吉が慌てて店主に黙る様促すが、
「秀吉、良い」
あんな事を言われても、奴の機嫌を取りたい。
〔かなり根に持っている〕
「見せろ、良ければ全て買ってやる」
何も、腕の中に閉じ込めて啼かせたいだけではない。
俺の手によって綺麗に磨かれていく奴を見るのも楽しみで、
「こんな高価な物」と言って困った顔をする奴を見るのも楽しみの一つだ。
店主の言う通り、派手な物を好まない奴らしい淡い色合いの、小花の刺繍を散りばめた見事な着物と反物が何点かあり、それら全てとそれに合う帯、装飾品をいくつか選び、城へと届ける様命じて店を出た。
視察を続けるにつれ、空良を城下に連れ出してやったのは夏祭りの一度だけだと言う事に気づく。
あの年頃の女であるなら、もっと出歩きたいと思うのかもしれんが、空良は何も不満を口にはせず、日々城の掃除を黙々とこなす。
空良を天主に閉じ込めている理由は勿論ある。奴の屋敷を襲った犯人に、空良が生きている事を悟られない様にする為だ。
何故空良を死んだ事にする必要があったのかは分からぬ。だが、奴の両親が命と引き換えにしても奴を守ったのには相当の理由があるはずだ。謎が謎だけに、無闇に奴を外に出すわけには行かぬが、もう少し、連れ出してやっても良いのやもしれん。
結局、その後も空良の事が気になりながら視察を終わらせ、城へと戻った。