第18章 恋仲〜信長編〜
「貴様、空良に触れた訳ではなかろうな?」
「なっ、俺はただ空良が泣くので色々と話を」
「貴様.... 空良を泣かせたのか!?」
「泣いたのは信長様が原因です。急に怒って部屋を出て行かれ、昨夜は一睡もせずに待っていたようでした。なのに急に、部屋を別にすると聞いて、今にも城から出ていきそうな雰囲気になっていたのを必死に宥めていただけです」
「........俺と離れたいと、距離を置きたいと言ったのは空良の方だ。その願いを叶えてやってなぜ泣く?」
益々分からん。
「恐れながら、此度の事は信長様の勘違いにございます」
「は?」
「空良は今まで、顕如の元で言わば尼のような生活を送ってきたのです。男女の色恋沙汰など何も知らぬ中、信長様のご寵愛を賜り恋仲となった事に、心がついて行かないようです」
「秀吉、貴様まで空良と同じように、訳の分からん恋仲の手順を踏めと俺に言うのか!」
俺に分からぬ空良の気持ちが貴様にわかるとでも言いたいのか。
「空良が手順にこだわったのは、信長様を思いすぎる故です」
「は?」
「信長様といると、好きだと言う気持ちが大きすぎて、常に心の臓が早鐘のように打ち痛いんだそうです。夜伽の時は特に激しく胸が打つ為、このままだといずれ心の臓が止まって死んでしまいそうだと.........。ですから、これを少しでも治めるために、手を繋いで会話を楽しんでと、軽やかな関係から始めれば良いのではないかと考えたそうです」
「................っ」
空良の考えは、本当に俺の想像を遥かに超えていて、全くもって油断がならん。
秀吉には見られぬように口に手を当て隠したが、
俺の事を思い過ぎて心の臓が止まるなどと言う発想に、緩む顔を元に戻せない。