第18章 恋仲〜信長編〜
「要するに、俺と距離を置きたいと、貴様はそう言いたいのか?」
「え?」
空良の顔色が変わり、俺はそれを肯定と捉えた。
「ち、違います。私、どうしても信長様といると緊張してしまって......、だから、」
「俺といると寛げぬと言う事だな」
「聞いてください、私が、んっ!」
もう聞けぬ!
拒まれた様な気になり、苛立ちを口づけにぶつける。
「....ん、....ん」
こんな時でも空良の唇は甘く、それが余計に俺を苛立たせた。
「こんな回りくどい言い方をせずとも、俺といるのが嫌だとはっきり言えば良いものを」
「だから違います!私が言いたいのは....」
「もう良い、望み通り貴様を一人にしてやる。暫くは、飯も別々だ」
「待って、信長様っ!?」
立ち上がり出て行こうとする俺の裾を必死で掴むが、今更だ。
「っ、...離せっ!」
一瞬見えた空良の瞳が潤んでいたが、それよりも怒りが勝り、空良の手を振り解いて部屋を出た。
「クソッ!」
勢いで部屋を出たものの、行き先などない。
だが、奴を抱くつもりでいたこの身体の疼きをどうしてくれる!
悶々としたままとりあえず大広間へと行き脇息にもたれ掛かった。
「恋仲の手順など、分からぬ」
数多の女を抱いてきたが、特定の女とねんごろになった事などない。
男と女、する事は一つ。
それが愛しい女なら尚更だ。
『私の事、なんだと思ってるんですか?』
顕如の元より連れ帰る時、奴は俺にこう尋ね、
『貴様は俺の恋仲の女だ』
自然とこう答える俺がいた。
“恋仲”など、よくぞ俺の口から引き出したものだ。
だが悪くない。
侍女と言う言葉の権力で奴を縛っていた時とは違う。気持ちで繋がり合うこの関係は、想像以上に甘美で手放し難く。
もう、何に邪魔されるでも、遠慮するでも無く奴は俺のものだと、空良も同じ気持ちでいるのだと思っていた。