第17章 恋仲〜後編〜
「これは異なことを言う」
「え?」
「お前が惚れた男は、そんじょそこらの男ではなく織田信長様だ。この日ノ本を一つに束ね戦のなき世を作ろうとしているその信長様に、普通や一般常識を当てはめて考えようなどとは愚の骨頂。そう思わないか?」
「それは、...........」
頭を、鈍器で殴られたかの様な衝撃が走った。
そうだ。私の好きになった人は、この日ノ本で名前を知らぬ人がいないほどの人だ。
住む世界が違い過ぎている私達だけど、でも信長様は一度だって私に信長様の価値観を強要してきた事はない。それなのに私は、信長様に私に合わせて欲しいと言った様なものだ.........
「私......だめだめですね」
いつだって、自分のことしか見えていない。
「まぁあまり気負うな。お前も自分の情況が目まぐるしく変わり、それを受け入れるのに時間がかかるだろうからな。だが、信長様を囲む女達の情況は待ってはくれなさそうだぞ?..............ん?そう言うお前も、信長様に渡したいものがあるんじゃないのか?」
光秀さんはそう言うと私の手に持つ文に視線を落とした。
「や、これは....」
目の前の、趣味の良さげな恋文の山を見せられてしまった後では、香も焚き染めていないただ紅葉を挟み込んだだけの自分の恋文がとても恥ずかしくなってきて、咄嗟に後ろに隠してしまった。
「どうした?俺が天主に一緒に届けてやる」
「でも、...こんな何の趣もなく可愛げのない文だし......あの、書き直したいのですが.....」
私らしくて良いと思ったけど、このままだと、目にもとめてもらえないんじゃ....
「お前はいやに形式や見た目にこだわるんだな。だが大切なのはお前の気持ちだろう?それとも、お前は信長様が見た目や価値感だけで選んでいるとでも思っているのか?」
「そ、そんな事は思ってません。信長様はそんな人ではありませんから......(でも私から器量をとったら何も残らないから顔は傷つけるなとは言われた気がする)」
「ならばかせ」
「あっ!」
光秀さんは両手に持つ文箱を片手に持ち替え、空いた手で私の手にある文を取り上げた。
「この文達の一番上に特別に置いてやるから安心しろ」
そう言うと、光秀さんは企み感満載の顔で去って行ってしまった。