第17章 恋仲〜後編〜
「............書けた」
今心にある全ての気持ちをこの文に託した私は、墨を乾かし赤く色づいた紅葉の葉を一緒に添えて織り込んだ。
「できた」
誰かに届けてもらうと、また変な噂が広がるといけないと思い、初めて書いた恋文を握りしめ、信長様が天主へ戻られる前に文机に置こうと思い部屋を出た。
廊下を早足で歩いている途中、次は光秀さんとばったり会った。
「これはこれは、渦中の人物にこんな所でお目にかかれるとは」
「光秀さん」
何だか意地悪を言われそうな気がして、頭を下げて通り過ぎようとした時、ニヤリと笑う光秀さんの両手に文の山が見えた。
「光秀さん、それ........」
光秀さんの両手にあるのは間違いなく恋文の山。
仕事の文とは違い、文に焚き染められた様々な香の薫りが漂っているし、添え花や紙の染め色など、それぞれに個性豊かな色を出していて、存在感を放っている。
(安土では、秀吉さんと政宗さんが一、ニを争う人気者だと女中さん達が言っていたけど、光秀さんもこんなに恋文を頂く程の人気なんだ)
「勘違いのない様に言っておくが、これは皆信長様宛の恋文だ。俺にじゃない」
私の心の内を読んだかの様に光秀さんが言った。
「え?」
恋文なんて、信長様が読んでる所、見た事ないけど.......
「どうやら城下では、既にお前と信長様の不仲説が出ていて、お前が城を追い出されるのは時間の問題らしいぞ。それを聞いた女どもがこぞって信長様の御寵愛に預かろうと、こうして我れ先にと恋文を寄越したと言うわけだ」
「それにしても、こんな凄い量........」
この文を、信長様は全て読まれるのだろうか?
「天下人のお手付きになりたい女など、ごまんといるからな。お前くらいだ、恋仲の手順がどうのと言って御館様を困らせているのは」
その目は、やはり意地悪に私を見る。
「ごめんなさい。でも、私も他の人達の様に普通の恋仲になりたくて......」
一から始めれば、緊張をせずにもっと自然に寄り添える。そうなれると思ったけど........