第17章 恋仲〜後編〜
「...........はい」
立ち上がり襖を開けると、いつもと変わらず面倒臭そうな顔の家康が立っている。
「そろそろご飯食べ終えた頃だと思って来たんだけど、...........食べてないみたいだね?」
廊下に、手をつけずそのまま戻した朝餉の膳を見て、家康は顔をしかめた。
「あ、.............食欲なくて.......」
「顔も酷いし、そんなんになるなら何で信長様と別々の部屋で過ごしたいなんて言ったのさ」
「................え?私.....そんな事言ってない」
「は?違うの?信長様は今朝から不機嫌で一言も話さないから本人から聞いたわけじゃないけど、あんたが恋仲を一から始めたいってそう望んだから部屋を別々にするって秀吉さんから聞いて迎えに来たんだけど.......」
「そんな事に..........なってるんだ......」
恋仲として手順を一から始めたいとは、人によってはそう取れるのかもしれない。
益々自分の言葉足らずさを痛感してしまう。
「で、用意はできたの?」
「あ、はい。もう行けます」
「って、荷物それだけ?」
「はい」
「そんなわけないでしょ?いつも着てる着物や小物類もあるでしょ?手伝ってあげるから持って来なよ」
家康は奥の部屋に置いてある私の着物や小物類、遊具一式をチラッと見て言った。
「あ、あれは元々信長様から頂いた物で私の物ではないし、あんな高価な物を頂くわけにはいかないからこれだけでいいんです。何か必要になったら女中部屋から拝借する事にしますから」
全てが高価な物すぎて、私には不釣り合いな物ばかりだから.....
「はぁ〜、あの人も結構苦労してるんだな」
「え、.....どうして?」
「男が女に贈り物をする理由はただ一つ。その相手が好きで喜ばせたいからだよ。少なくとも俺の知る限り、信長様が特定の女性に何かを贈ったのを見たのはあんたが初めてだけど、その様子だと、あまり喜んで使ってるって感じじゃないね」
何だか、とても痛い所を突かれた気がする......