第17章 恋仲〜後編〜
「言葉足らずだった私が悪いんです」
ううっと、空良は再び涙を流す。
「いや、信長様が怒られたのはそこでは無いと思うぞ。だけどどうしてお前も急にそんな事を言ったんだ?」
「それは...........私、いつも信長様といるとドキドキと胸が苦しくて、いつか心の臓が止まってしまう気がして......、だから、ちゃんと恋仲としてのイロハの手順を踏んでいけば、少しはこのドキドキも治まるんじゃ無いかと思って.......」
(何なんだ、その可愛い理由は!要は信長様が好き過ぎてって話か!?)
ぶっているわけでも、可愛い子を演じている訳でもなく、空良は本気だ。
何だか毒針事件の時の様に、また俺だけ割に合わない結果になりそうな気がして来た。
「そうか。お前も色々考えてるんだな。....あと、非常に言いづらいんだが、信長様からお前に、別の部屋へ移る様にと仰せつかってる」
「えっ!?」
空良の大きな目が更に大きく見開かれ、またもやポロポロと大粒の涙が溢れた。
(なる程な、.....これは癖になりそうだな....)
越前の山奥の小さな国の姫として育ったと言う空良は、この安土や京の女どもと比べると世間擦れしておらず、ましてや若くして家族を失い、顕如達の信徒や門徒と共に俗世を捨てたかの様な生活をしてきたからか、世情にも疎い。
だから周りの意見に素直に耳を貸し素直にそれを吸収していく。加えてこの容姿だ。信長様が夢中になるのも分からなくない。(現にもう、目の前の空良が可愛くて健気で抱きしめてやりたいくらいだ)
今回もきっと、女中に言われた言葉を鵜呑みにしてそれを何の気無しに信長様に言って怒らせてしまったのだろう。
(と言うか、こんな事で怒るか?まぁ、引く手数多だった信長様にとって夜伽を断られると言うのは有り得ない事だとは思うが..............、それだけ空良に惚れていると言う事だろう。現に軍を率いてまで連れ戻したくらいだしな)