第16章 恋仲〜前編〜
「え?」
その声に驚いてすぐに顔を上げて信長様を見た。
「早く貴様の考えとやらを見せろ」
声と同じく少し不機嫌な顔をした信長様が私を急かす。
「え、だからもうしておりますが.......」
私は再び手をキュッと握り合わせ、信長様の胸に顔を埋めた。
「は?.......何もしておらんだろう?」
「えっ?」
(やっぱり、口で説明した方がいいのかなぁ)
「だから、私がしたかったのは、こうやって手を繋いで、身体を寄り添わせて今夜は眠りたいんです」
さっきと同じ行動を、今度は言葉で説明しながら実践した。
「..........まさかとは思うが、それが貴様のしたい事か?」
「そうです」
「その後は、そのまま何もせず眠ると.......そう言いいたいのか?」
「?そうです。いけませんか?」
信長様の声はどんどん不機嫌になっていく。
「信長様?..........っわ!」
不思議に思って信長様を見ようとした途端、視界が反転した。
「仲を深めるため、俺をわざと焦らしておるのか?ならばその作戦は成功だ」
熱のこもった目が私を見下ろすと、首筋に熱い唇が押し当てられた。
「...........っ、の、信長様!?待って」
「仲を、深めたいのであろう?お望み通り、今宵も深く愛してやる」
ちくっと首筋に甘い痛みが落とされる。
ぞくりと身体は熱を上げ始めるけど、これではいつも通りになってしまう。
「わ、私は、信長様と本当の恋仲になりたいんです」
身体を捩り思いを伝える。
「俺達は既に恋仲だ。どう言う意味だ?」
動きを止めて、信長様は怪訝そうに私を見る。
「今日、女中仲間と話していて、私は恋仲としての手順を踏んでないって事に気づいたんです」
「は?」
「だ、だから、私はもとは侍女として信長様のお側に付いたので、その、.......初めから、あの.....致してしまったわけですが.........、恋仲の男女は、思いが通い合った後は、逢瀬を重ね、手を繋ぎ、口づけをしてと、順序立てていくもので.......侍女から恋仲になってしまった私には、まだ心の準備がしっかりできてないと言うか........」
だからこんなにも信長様にドキドキしてしまって、心が落ち着かない。