第16章 恋仲〜前編〜
「........言っておる意味が全くわからん。愛する女が目の前にいて褥を共にしておるのに、抱かぬ男がいると、貴様は言いたいのか?」
身体を起こし、信長様は褥の上にあぐらをかいた。
「それは.......、私たちは衣食住を共にしてますから。でも普通は別々に住んで逢瀬を楽しんで少しずつ距離を縮めていくものかと.......。現に母上にも、嫁入り前に殿方と深い関係になるのはいけないと教えられてきましたし.......(さっき思い出したばかりだけど)」
私も説明をしながら慌てて身体を起こす。
「要するに、俺と距離を置きたいと、貴様はそう言いたいのか?」
「え?」
(違う、そうじゃない)
「ち、違います。私、どうしても信長様といると緊張してしまって......、だから、」
「俺といると寛げぬと言う事だな」
「そんなわけ、聞いてください、私が、んっ!」
話の途中で噛み付く様に唇が重なると、強引に深く探られ黙れの口づけがされた。
「....ん、....ん」
「こんな回りくどい言い方をせずとも、俺といるのが嫌だとはっきり言えば良いものを」
唇をわずかに浮かせ、冷たい目で信長様は私を見た。
「だから違います!私が言いたいのは....」
「もう良い、望み通り貴様を一人にしてやる。暫くは、飯も別々だ」
「待って、信長様っ!?」
立ち上がり出て行こうとする信長様の裾を必死で掴んだ。
「っ、...離せっ!」
踵を返す様に裾を掴む手を振り解かれ、信長様は部屋から出て行ってしまった。
「な、何で.......?」
どこでどう言い方を間違ってしまったんだろう?
男に乱暴されそうになった時以外で、今まで私が何を言っても何をしても決して怒らなかった信長様が初めて見せた怒りの感情..........
信長様との仲をもっと深めたいと思った私の発言は、言葉足らずな私のせいで亀裂を生み、恋仲生活を危機的なものにしてしまった。