第16章 恋仲〜前編〜
「空良、こちらへ来い」
鏡に向かい髪を櫛でとかし寝支度を整えていると、褥の上であぐらをかいて座る信長様に呼ばれた。
「はい」
もう一度、鏡を見て自分の姿を確認する。
信長様にはいつだって綺麗にした自分を見てもらいたい。
「いつまでそうしているつもりだ?」
本人曰くあまり気が長くない信長様は(何度かそう言われたことがある)、褥から身体と腕を伸ばして私の寝間着を引っ張る。
「どうせすぐに乱れる。それに何もせずとも貴様は十分に綺麗だ」
.............ほら、この言葉と視線だけで、もう胸が苦しいくらいに高鳴る。
「あの、信長様」
いつも通り、膝の上に乗せられ腕の中に閉じ込められた私は、昼間の小夜ちゃんとの話で思った事を言おうと、信長様に話しかけた。
「何だ、」
「私........信長様と恋仲になれて毎日がとても幸せです」
信長様の両手を握りしめて思いを伝える。
「何だそんなこと.....」
信長様も顔を緩めて頬に口づけをくれる。
「だから私、恋仲をもっと深めたいと思って考えたんです」
「俺も、もっと貴様を堪能したいと思っていた所だ。その考えとやらを言ってみよ」
「............あの、口で説明するのは難しいので、その.....実際にやってみても...いいですか?」
「今宵は随分と積極的だな。だが悪くない、やってみよ」
信長様はニヤリと口角を上げて私を抱きしめると、そのまま一緒に褥に寝転んだ。
「っ、............」
(うーーー、やっぱりドキドキする。でも、こんなに毎日がドキドキでは心の臓が壊れそうでこの先やっていけそうにないし.....)
「信長様、大好きです。お休みなさい」
信長様の両手に自分の手を重ね握り合わせると、鍛えられた硬い胸板に頬を寄せて目を瞑った。
(あぁ幸せ)
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「..............おい、何をしておる?」
幸せを噛み締める私とは正反対に、不機嫌な声が頭の上から聞こえてきた。