第16章 恋仲〜前編〜
「だからぁ、女中の希望の星って言ったでしょ?空良には奇跡を起こして欲しいって、みんなが思ってるんだよ?」
「そ、そんな事急に言われても.........私もまだ恋仲になったばかりで、毎日心の臓が爆発して壊れそうな程にドキドキが止まらないのに.........」
私を、いずれは妻にすると信長様は確かに言ってはくれたけど、いくら信長様でもこの件ばかりは勝手はできないはず。
近い将来天下を取られ朝廷より何か官位を賜れば、それこそもう、お側にいることはできない方となってしまうだろう。
「変な話をしてごめんね。身分の違いは、私達だってよく分かってる。ただね、空良がこのお城に来てから、本当に信長様は変わられたし、お城全体の雰囲気がとても良くなったの。だから、空良がご正室としてこのお城を仕切ってくれたらと、私たちは願わずにはいられないの」
「小夜ちゃん............」
そんな風に皆が私を受け入れてくれているだけで、私はやはり幸せ者だ。
刺客として信長様と出会い身分違いの恋をし、その恋が実り、恋仲として日々を共に過ごしている。
これだけでも信長様との事は奇跡の連続で、私は本当にこれ以上を望んではいないし、いけない。
「ごめん、そんな顔しないで。ただ私達は空良をいつでも応援してるって事。せっかく信長様と恋仲になったんだし、空良はそれを楽しむべきだよ」
「う、うん。そうだね、ありがとう。胸のドキドキを鎮める方法も何となく思いついたし、楽しむ為にも信長様と色々とお話しした方が良いよね」
「うん。私も、空良達に負けない様に彼との仲を深めるんだ。好きな人がいるって、幸せだね」
にっこりと無邪気に笑う小夜ちゃんは可愛いくて.....、その相手の人が本当に好きなんだと伝わってくる。
「そうだね。幸せだね」
好きな人がいると言う毎日は本当に幸せで、全てがキラキラと楽しくて.......
大好きな人の顔を見るだけでも、心が温かなもので満たされて自然と顔が緩んでしまう。
諦めていた頃と違い、それを手に入れてしまった今、こんな日常がこの先も長く続いていきますようにと、叶わぬ願いとは分かっていても、今の私はそれを願わずにはいられない。