第2章 信長の侍女
「危険すぎます。今すぐ空良を尋問にかけるべきです!」
秀吉は再び声を荒げて訴える。
「無駄だ。奴は何も話さん。昨夜も二度、俺の前で自ら命を断とうとした」
「っ.............」
信長の言葉に、秀吉含め他の武将達も口を噤む....
ただ一人を除いて........
「ならば、自害できない形で私が口を割るまで取り調べましょうか?おなごと言えど、御館様の命を狙うは重罪。遠慮は要りますまい?」
光秀は、取り調べという名の拷問を再度打診する。
「っ、光秀お前それは......」
どんな屈強な男でも口を割らせる、光秀の血も凍る様な取り調べを知っている武将達は、流石にそれはと顔をしかめた。
「空良を拷問にかける事は禁ずる。尋問する事もだ。貴様らに今話した事は、空良には決して漏らすな。あくまでも奴は俺が京から連れてきた寺の女中で、今後は俺の侍女だ」
これまで、信長の命を狙った者は男女問わず生き長らえた者などいない。ましてや側に置くなど無かったことだけに、そこにいる者全員が、信長の命には納得が行かなかった。
特に、信長の側近である秀吉には理解し難く......
「俺には理解できません。ご自身の身を危険に晒してまであの娘を手元に置く理由を教えて下さい」
その問いかけに、脇息にもたれた信長は少し遠くを見て呟く。
「.........約束だからな」
「約束とは?」
予期せぬ答えに戸惑う秀吉。
「確か.....本能寺でもそう仰られておりましたが.....一体どなたとの約束でございますか?」
あの夜、唯一信長と空良を見た三成が、思い出した様に信長に尋ねた。
「ふっ、戯言だ、聞き流せ。俺もまだ信じられんのだ」
そう言うと、信長はまた遠くに目をやった......
「御館様.......?」
秀吉が声をかける。
「深い意味はない。先ほども言った通り、奴との身体の相性が良かった。それだけだ。暫くは、何も知らぬ振りをして空良の身元と身辺を探れ、蘭丸については、奴が戻った折には俺の元へと寄越せ。戻らぬ時はそのまま捨て置け良いな!」
「「「「はっ!」」」
様々な疑惑と思惑を残し、本日の軍議は終了した。