第2章 信長の侍女
「あの...............」
あの後、信長の家臣に連れられ再び天主に戻された私は、すぐに垂れ目の男性に呼び出され、本丸の中にある一室へと連れて来られた。
「俺は豊臣秀吉。信長様の側近だ」
「............はい。秀吉様」
疑いと敵意の目(.............けど垂れ目)。
「様はいらない。それは御館様にだけお付けしろ」
「えっ?」
信長に.....様を付けるの?
「何か不服か?信長様付きの侍女となったんだ。当たり前だろう」
「..........はい」
そうだった。私.....侍女にされたんだった....
「俺ははっきり言ってお前を認めていない。御館様のお側にお前はいるべきではないと思ってる」
真剣な眼差しに、この人がどれほど信長の事を案じているのかが分かる。
あんな男でも、この人にとっては大切な主君なんだ。
「それに関しては、私も秀吉さんと同じ意見です。私の身元は明かせませんが、信長......様のお側になどとても上がれる身分ではありません。秀吉さんから信長.....様にそう進言して頂けませんか?」
あんな男の側に四六時中いなければいけないなんて信じられない。早く毒でも盛って殺して逃げたいくらいなのに.....
「勘違いするな」
「えっ?」
「御館様の命令は絶対だ。御館様がお前を侍女にすると言ったからには、お前は侍女としての使命を全うする責務がある」
「そんな.......」
「信長様直々にお声が掛かったのだ。これほど名誉な事はない。それとも、喜べない理由でもあるのか?」
先程の光秀と呼ばれた男同様に、探るような秀吉さんの目。
はなから私を疑っている人にどう答えろと言うのか....
「........何もございません」
仕方なくこう答え、頭を下げるしかない。
「ならいい。俺が信長様に仕えて以来、初めて誰かをお側に置くと仰ったんだ。信長様は日々の激務で大変お疲れだ。侍女として信長様によく仕えお疲れを癒して差し上げろ」
「.........はい」
結局、何がしたかったのか.....
秀吉さんはこれだけ話すと、また私を天主に戻した。
その後、何度襖の外を除いても常に見張りが置かれていて、私は完全に天主に監禁状態となった。