第15章 道
「ふんっ、..............蘭丸」
信長様は顕如様の言葉に答える代わりに蘭丸様の名を呼んだ。
「.........はい」
「良い目だ。吹っ切れた様だな」
「はい。...... 空良を宜しくお願いします。泣かせたら、この間の夜みたいにまた連れていきますから」
(蘭丸様...)
「ふっ、要らぬ心配だ」
信長様は口角を上げ不敵な笑みを浮かべる。
「あと、一つだけお耳に入れておきたい事があります」
蘭丸様は真剣な顔で言うと、信長様にこそっと何かを耳打ちした。
「!」
何を信長様が聞いたのかは聞こえなかったけれど、信長様の顔が一瞬強張り険しくなった。
「分かった。その情報を得られただけでも、今夜ここへ来た甲斐があったというもの。空良の事は俺が必ず守る。貴様は安心して己の信念を貫け」
「はいっ!」
これはきっと、武将としての信長様と、その武将に仕える小姓としての蘭丸様との最後の時。
頭を下げる蘭丸様を信長様は嬉しそうに見ながらも、その目は少し寂しそうに見えた。
私も、お二人にお別れを言う時だ。
「顕如様、蘭丸様、お身体に気をつけてお元気でお過ごし下さい」
「 空良、お前も達者で暮らすが良い。お前の選んだ道だ、しかと進むが良い」
「はい。顕如様、本当に今日までありがとうございました。ご恩は決して忘れません」
涙が、自然と溢れ始めた。
「空良、泣かないでよ。俺まで悲しくなっちゃう」
迷いを捨てた蘭丸様はいつもの愛らしい笑顔の蘭丸様だ。
「蘭丸様、私、蘭丸様から頂いた沢山の優しさを決して忘れません。本当にありがとうございました」
「うーーん、お礼を言われるとちょっと辛いから、本当の事言っちゃおうかなぁ....... 」
感謝の気持ちで蘭丸様の手を握る私に、蘭丸様は困った顔を向けた。