第15章 道
顕如様の言う通り、私に顕如様の苦しみが分かるはずない。それでも言わずにはいられない。
「生意気な事を言ってごめんなさい。でも顕如様にはもう今を生きて欲しいんです」
私にとって家族の様に大切な顕如様と蘭丸様だから、今を生きて欲しい。
「顕如様、俺も空良と同じ気持ちです」
突如、蘭丸様が口を開いた。
「皆を納得させるには時間がかかる事は承知してます。けど俺は、....俺もあの頃の様に顕如様には笑って未来を生きて欲しいんです」
「蘭丸..........」
顕如様の眼の奥が初めて揺れた。
顕如様の心の鍵は、蘭丸様が握ってるんだ。
「俺が顕如様を支えていきます。ですからあの頃の様に.....」
顕如様の瞳と対照的に、今までずっと揺れていた蘭丸様の瞳はしっかりとした決意の色へと変わった。
前に、顕如様は蘭丸様にとって命の恩人なのだと聞いた事がある。だからその恩を今度は俺が返す番なんだと蘭丸様は言っていた。
私はその恩返しとは、顕如様と共に仇を撃つ事なのだと思って来たけど、そうじゃなかったんだ。
蘭丸様は、ずっと顕如様に前へ進んで欲しかったんだ。なのにその気持ちを隠してずっと顕如様に寄り添って来たなんて.......
蘭丸様のそんな深くて切ない愛情もあるなんて初めて知った。
だからこそどうか顕如様に届いて欲しい。蘭丸様の心からの願いを聞き届けて欲しい。
「「顕如様」」
私たち二人の、顕如様を呼ぶ声が重なった。
「..........................お前といい、空良といい、私の周りは心根の弱い者ばかりが集まる」
顕如様は大きな溜息を吐きながら一人言ち、手にした刀をパッと投げ捨てた。
「信長、私はお前を許す事は出来ない。だが、ここにいる弱き者たちの願いを無碍にすることもしたくはない」
顕如様は、視線を私達から信長様へと移した。
「ふっ、貴様が何を思おうが勝手だが、ここから逃げられると思っているならおめでたい奴だ」
信長様は口角を上げ不敵に笑う。
「愛しい者の頼みだ。聞かぬはずはない。その為にわざわざここに来たのだろう?」
顕如様も張り合う様に言い返し、口角を上げた。