第15章 道
たったったったと、走る音がついに牢屋の入り口にまで来た。
(あ!)
「顕如様早く!こちらです」
それは、今まさに脱獄しようとしている顕如様と蘭丸様。
「どこへ行く、蘭丸」
信長様の低い声が闇夜に響き、蘭丸様の背中がびくっと動くのが分かった。
「信長様!」
手に持つ松明を信長様の方にかざすと、その背後に隠れるように立っている私と目が合った。
「空良..........」
松明の灯りだけでも分かる。蘭丸様の瞳が揺れている事が..........
「随分と抜け出すのに時間がかかったようだな。以前の貴様ならもっと早くに抜け出しておっただろうに、腕が鈍ったか?」
この中でたった一人、嬉しそうな信長様は、蘭丸様を挑発する。
「っ、俺の枷と牢屋の鍵だけ丁寧に新調されてましたから.........」
「貴様は俺の小姓として良く働いてくれたからな。そんな貴様への褒美だ気に入ったか?」
「相変わらずですね。そうやって人がもがき苦しむ様を愉しむ所.........。どうせ今夜俺が抜け出す事も分かってたんでしょう?」
「いや、貴様には礼を言わねばと思っておったのでな」
「礼?嫌味の間違いじゃないんですか?」
「いや、礼だ。空良を俺の元に寄越してくれた礼を貴様にはせねばと思っておった」
「っ、.......」
(信長様、何を急に......?)
「蘭丸、奴の挑発に乗るな、空良、我らを裏切り魔王に堕ちた女がこんな所にまで来るとは、よほど私への恨み言があると見える」
蘭丸様を制止し目を細め、忌々しそうに顕如様は私を見る。
「違います。顕如様、私は、」
「お前と話す事はもう何もない。早くこの魔王の住処へと戻れ」
「顕如様.......」
冷たくあしらう様に言葉を放っているけど、これはきっと本心じゃない。でも何からどう切り出せば良いのか.......
「顕如、一つだけ教えろ。空良の屋敷を襲った犯人は誰だ?」
戸惑い言葉を失う私の肩を抱いて、信長様が顕如様に質問を投げかけた。