第15章 道
「..............気に入らん」
「え?」
依然として、唇が今にも触れそうな距離の私たち。
「俺の命を狙った奴らの助命を願い出ることが俺との口づけよりも大事とは気に入らん」
おでことおでこを合わせ、面白くなさそうに信長様は思いを口にした。
「っ、ごめんなさい」
こんな時なのに、不謹慎にも私の顔は赤らんでしまう。
「許さん。そんなに奴らの命を助けたいなら、貴様から先ほどの口づけの続きをしてみよ」
「え?」
もう、顔から身体から密着していない所などほとんどないと言うのに、信長様は私の腰を引き寄せ更に隙間をなくしていく。
「あの、」
「触れるだけの口づけで済まそうと思うなよ。俺が納得をする口づけができたら考えてやる」
「っ..........ん」
私の唇を自身の親指の腹で押しながら、信長様はとても意地悪な譲歩案を出してきた。
「分かっておると思うが、貴様との口づけの時間を奪われて今の俺はすこぶる機嫌が悪い。かなり頑張らねば無理だと思え」
口調とは裏腹に、少しだけ垣間見える口元は弧を描くように上がっていて、焦る私に構わずあちらこちらに口づけを落とし始めた。
「ん、.....待って、ン、信長様」
確か、前にもこんなことがあったような.......
「どうした、早くしろ」
「や、.....」
あの頃はまだ、信長様への気持ちに気づいていなかった時で、.............でも今は違う。
「したくありません!」
信長様の口に手を当て、口づけ攻撃を防いだ。
「何!?」
当然の反応のように、信長様は塞いだ私の手を取り怒りを露わにする。
「わがままを言ってごめんなさい。でも、信長様との口づけは私にとって何物にも変えられない神聖なもので、とても大切な事で時間なんです。それなのに助命の為に信長様に口づけてしまっては、これから先信長様と口づける度に、この日のことを思い出してしまいそうで.......その、集中できなくなりそうと言うか.......、なので何か他の案に変えて頂けませんか?」
「はっ!?」
驚いたように目を見張り私を見る信長様。
でもこれは譲れない。信長様との口づけは特別だからこそ、取り引きには使いたくない。命はもちろん助けたい。だから何か別の方法を探したい。