第15章 道
「あの.........」
信長様を困らせる(怒らせる?)言葉と分かっているけど、言わなければいけない。
母の懐剣をギュッと握りしめて勇気をもらい口を開いた。
「地下牢にいる顕如様と蘭丸様の事です。..............お二人の命を助けて頂きたくて.......」
私を見つめる信長様の瞳から悪戯な色が消え、僅かに怒りの炎が灯った気がした。
「................して、俺にどう助けろと?」
「え?」
「事と次第によっては、本能寺と先日の件は不問に伏してやっても良いが、顕如は、僧籍に身を置きながらも本願寺の門徒や信徒を唆した挙句一揆を起こし、沢山の命を無駄に散らした。蘭丸についても同罪だ。いや、奴は俺の小姓でありながらも長年に渡り裏切り行為を働いていた。二人とも死罪は免れんし、助けては示しがつかん」
それは、上に立つ者としての至極真っ当な意見だ。
「それを言うなら私とて、死罪になってもおかしく無いはずです」
「貴様の事は、広間で会った武将以外であの夜の真実を知る者はおらん。ただ俺が強引に本能寺より連れ帰った女中だとその他の者は思っておる」
「でも、それにしたって刺客が恋仲になってこんな堂々としてるなんて、既に認めてくれているとはいえ、秀吉さん達に言い訳が立ちません。お二人が死罪となるなら私も同罪のはずです」
例え、真実をねじ曲げられていたとしても、私が信長様の命を狙った事実は消えない。秀吉さん達が温かく迎え入れている事はすでに感謝しきれない程に感じているけど........
「貴様、今の今俺と何を約束した?」
私の頭に手を入れ強引に引き寄せられると、鼻と鼻が触れそうな距離で凄まれた。
「それは.......」
「言え!」
「っ、.......命を、自ら断たないと.....」
「そうだ、それにもう一つ付け加えろ」
「もう一つ?」
「二度と、俺の前で死を望むな」
「わ、分かってます。でもそれとこれとは違います。私が今こうして信長様と共にいられるのは、あの日顕如様が追っ手に捕まりそうになった私を助けてくれたからです。それなのに私だけ一人が信長様の元で幸せに浸る事はできません」
信長様と共に生きて行きたいからこそ、わがままだと、勝手だと言われてもこの願いを聞き届けてほしい。