第2章 信長の侍女
「し、しかし御館様、名前しか分からぬ何処の者かも分からぬ娘をその様に側に置くのは危険です」
垂れ目の男性は、大反対とばかりに声を発した。
「いや.......面白い。信長様が良いって言ってんだ、俺は構わない」
今度は眼帯の男性だ。
「アホらしい........」
猫っ毛の男性は、心底つまらなそうに顔を背けた。
もう一人.....この中で一番物腰が柔らかそうな寝癖のついた男性は、じーっと話に耳を傾けている。
「わ、私はあなたの侍女にはなりません」
両親の仇の女になど.......
怒りと焦りで、抱き抱えられた腕から逃れようと身体を捩った。
「大人しくしたおれと言ったのに騒がしい奴だ」
モゾモゾと動く私を捕らえる様に顎を掴むと、
「えっ?....んっ.......!」
またもや、みんなの前で横抱きにされたまま口付けられた。
「や、やめ、んん」
嫌なのに、嫌なはずなのに、逞しい胸にくっつく様に抱き寄せられ、逞しい腕が私の頭を抱える様に口付けると、どうしようもなく身体がふわふわして力が抜けて行く。
「っ......はっ、..........」
ちゅっと、音を立てながら唇を離すと、銀糸が伸びて昨夜の事が思い出された。
「...............っ」
「親の仇を討ちたいのであろう?その機会をくれてやると言っておるのだ、黙って従った方が貴様の為だぞ」
ニヤリと笑いながら、静かに私の耳に囁くと、おでこにとどめの口付けを落とした。
「見ての通り、俺はこの女を気に入っておる。今後は天主にて共に過ごすゆえ、貴様らもその様に心得よ」
「「「はっ!」」」
上の者の意見は絶対だ。
信長の言葉に、そこにいる者達全てが頭を下げた。
もう、誰も異論は唱えない。(垂れ目の人はとても何かを言いたそうだったけど)
私は.......この刻をもって、親の仇である織田信長の侍女となってしまった。