第2章 信長の侍女
「御館様!その娘がもしや本能寺から連れ帰ったと言う娘ですか?身元は分かったのですか?」
垂れ目の男性が身を乗り出して、矢継ぎ早に質問を投げた。
「いや、中々に強情な奴でまだ何も聞き出せておらんが、分かっている事は空良という名で、俺と身体の相性がいいという事だ」
(............なっ!?)
私だけではなく、広間にいる者全てがその答えに言葉を失った。
先程の垂れ目の男性は、金魚の様に口をパクパクと動かしている。
「ククッ、百戦錬磨の御館様をたぶらかすとは、余程優秀な密偵と見える。先程も盗み聞きする様に広間を覗いておりましたし、御館様、どこの手の者か、私が直々に取り調べましょうか?」
広間の前で私を捕まえた銀髪の男性が、恐ろしい笑いを浮かべた......
(この人....怖い....)
絡め取られる様な視線にゾクリとし、ビクっと恐怖で身体が震えた。
それが信長の手に伝わったのか、信長は私を抱き抱える腕に力を込めた。
「光秀、あまり空良を怖がらすな。それに、取り調べなら昨夜俺が全てを脱がして行ったがこやつは密偵ではない。ただの未通娘であった」
「.................っ」
またもや、人前でありえない発言をされた。
垂れ目の人は、もう顎が外れそうな程に口がアングリと開いている。
「ククッ出過ぎた事をもうしました。御館様が既にご自身で取り調べたと仰るのでしたら、心配はありますまい」
言葉とは裏腹に、探る様な目で私を見ながら光秀と呼ばれる男は頭を下げた。
「では、問題はないな。空良は、本日より俺付きの侍女とする」
「えっ!?」
思わず声をあげてしまった。
侍女とは、女中とは違い位の高い人物の身の回りの世話をする女性の事だが、男性に付く場合、その意味合いは違って来る。
信長付きの侍女.......それは時には主人と閨を共にし、生活面の全てをお世話する為、ある意味、側女や妾を意味する。